
どうにも昭和と平成の時代感覚を尻にぶら下げているせいか、飯代の常識が30年値上がりしなかった平成に固定化されてしまっている。それを一言で言えば、ラーメンとカツカレーが1000円を超えると、その途端に買う気がなくなる、食べる気も失せる。閾値(しきいち)とはある点を超えると途端に反応が始まる境目のような意味だが、食べ物に関してはある価格を超えると購買意欲が激減する「飲食閾値」のようなものがあると思う。この見極めが飲食店での値付けであり、売りたい相手・客層を選ぶ第一歩だ。
街中にあるカレー専門店ではカツカレーの値段がとうの昔に1000円越えしていたようだが、カレーのチェーン店ではまだ1000円越えをしないで頑張っている。街の洋食屋でもかなりの店がギリギリ1000円を超えないように踏ん張っている気がする。税込950円とか、税別880円見たいな値付けだ。同じ価格帯にはナポリタンとか、エビピラフが並ぶ。そんな店でも、オムライスになると1000円を超えるから、洋食店でのオムライス、ナポリタン、カツカレーのヒエラルキーというか階層順位がよくわかる。カツカレーはメニューランキングでだいぶ下の扱いだ。それがちょっと悲しい。
お手軽なカツカレーが食べられるといえば、カレー専門店よりも牛丼御三家の方が使いやすいと思う。牛丼店は店舗数も多く、入りやすい場所にある。牛丼最大手のカツカレーは食べた記憶がないが、他の2社ではなかなか個性的なカレーがありバリエーションも豊富だ。おまけに価格が限りなくワンコインに近い。1000円越えあのカレーが出現しそうにない安心感がある。
その「お宝」カレー売る牛丼チェーンの一つが、カレー専門店を展開している。このカレーが牛丼屋のカレーよりもこれまた個性的ですごいものだ。ルーに加えているであろうスパイスの匂いが独特で家庭的なカレーとは一線を画す。好みは分かれるところだが、カレー道入門者にはちょっとレベルが高いかもしれない。ちなみに、某カレールーメーカーが展開するチェーンカレー専門店は、実に素直な味で万人受けするが、凄みはないのと対照的だ。
そして、一番すごい(と思うのだが)のが、その低価格だ。カレーのトッピングにより値段が変わるシステムなのだが、カツを乗せたものが一番低価格に設定されている。
カツはちょっと小さめだが、カレーの量とのバランスはこれくらいが正しい。たまに、ルーが少なくカツが大きすぎる店にぶち当たることもあり、この時はカレーではなくカツライスを食べている気がするので、カツの量が多すぎるのはいささか問題があると思っている。
このカツカレーのビジュアルを見ると、カツはおまけ、ルーが主役というのがよくわかる。最近ではレトルトカレーの品質(と値段)が向上しているため、昔ながらの自宅のカレーの味ではなく、ブランドと商品による好みが定着しているかもしれない。自分の好きなのは、〇〇カレーの中辛だ、という感じだろう。ただ、トッピングを含めたバリエーションも楽しもうとすると、カレーは家庭で食べるものではなく、カレー専門店で食べるものになっていくのかもしれない。インスタントラーメンとラーメン屋のラーメンのような棲み分けの時代が到来したということで、うちのカレーはね………という会話が昭和・平成と共に消え去るのだなあ。いと哀れ、なのであります。