写真はイメージです (笑)
Photo by Dom Gould on Pexels.com
「深夜食堂」の最新刊(二十六巻)を読んであれこれ考えてしまった。このコミックはテレビ番組として何シーズンも映像化された。その後、映画にもなり、最新版はNetflixで放映された。新宿ゴールデン街にある(と言う設定)、深夜に開店する飯屋に出入りする人々のあれこれを描いた作品だ。物語の中で季節はうつろうが、年月は変わらない「永遠のサザエさん」状態にある。基本的に社会の変化は感じにくい、あるいは表現されない類の作品だろう。ところが、時事ネタどころか社会変化が重要なテーマになってしまった。
深夜開店する店だから、当然のようにコロナの初期は休業、あるいは昼間営業をするしかない。その当時のドタバタは前巻に描かれている。後々コロナと言う狂騒社会を検証する時には新聞や雑誌の記事などより、こうしたコミックの方がよほど参考になるだろうと思う。(テレビや新聞会社では最近流行りの捏造騒動が起きそうだ)
今回の巻では、そのコロナ社会が少し落ち着いて深夜営業を再開できるようになった時期、それでも客はマスクをかけているという微妙な時期にあたる。
一話ごとに、コロナの前と変わることのない庶民の暮らしぶりを切り取っている。人情噺が中心で、コロナに影響を受けて人生を棒に振ったような登場人物はいない。それだけに、マスクをかけている客たちの姿は、のちの時代になってこのコミックを読む読者には、コロナの時代にみられた特殊な社会状況を解説しておく必要があるだろう。
同じ社会混乱期の中で制作されたテレビドラマや映画をみてみると、マスクをつけた登場人物はいない。コロナなど全く起きていないパラレルワールド(並行世界)の話かと思いたくなるほどだ。確かに、演者たちがマスクをかけて登場すると、半分覆面状態だから顔がわかりにくいと言う物理的演出の問題もあるだろう。
ただ、マスクをつけてもドラマを成立させることは可能で、仮面ライダーなど主人公の戦闘シーンでは顔が全く見えない。敵役に至っては最初っから人の顔をしていない。また、アニメ的な演出をするのであれば、正義の味方(良いもの役)は青いマスク、悪者は赤いマスクなどで見分けをつけることもできるだろう。
だからこそ、コロナ時代の映像制作ではあえて意図的にマスクなしの社会を描いていたはずだ。撮影現場では政府の諸注意を守って撮影しています、などと言うテロップも入っていた時期がある。記憶にある限り、マスクをつけたり外したりするリアルな社会を映し取っていたのは、「孤独のグルメ」くらいではないだろうか。旅番組などではマスクをつけた出演者が動き回っていたが、あれはドラマとは違う類の番組だろう。
だからこそ、コミックというメディアの中で「マスク社会」のドタバタをリアルに記録した作品は貴重だと思う。10年後に紙媒体での出版が事業として残っているかは微妙な感じがしているが、電子出版は紙媒体と比べてはるかに作品の生存性は高いから、この作品が電子媒体ですら読めなくなることはないだろう。未来の読者に向けて「コロナの社会」とはどんなものであったかの解説文を、ぜひ巻頭に付け加える改定を行なって欲しい。
そんなことを考えていて思い出したことがある。先の大戦で宣戦布告が遅れたまま戦争を開始して、散々国民を煽っておきながら、最後には無条件降伏を受け入れ終戦するまでの期間が3年半あまりだった。コロナの狂騒期間は3年ほどだったから、大戦後に戦時の社会を振り返ってあれこれ議論が湧き上がったのと同じように、コロナ時代のあれこれ、馬鹿馬鹿しさを振り返るべき時がすぐにやって来る。
特に政治屋のバカっぷりと、一部医療関係者の売名行為、テレビメディアを中心とした扇動行為があったことを歴史の事実として記録し忘れないようにしなければいけない。ただ、このリアルな歴史が捏造され改変され記録されるのも目に見えている。昭和20年代に起こった右派左派それぞれの戦争の記録を読み返せば、同じことが起こることは容易に予想がつく。そして、悪徳政治屋はいつでも自分たちに都合の良いように歴史を書き換える。というか、都合の良い歴史を記録する。
別にこれは日本だけに限ったことではなく、人類が文字を発明した頃から延々と続く種族的な性向だ。人類は「嘘つき」がデフォルトな状態の生物であることに間違いはない。
とすれば、このような「コロナの日常」を設定にして、同時代性の高い情報を切り取っている作品は大切に保存しておくべきだと思うのだ。少なくともコロナ社会の狂気は、歴代の自民党政権・内閣で最強最長だった総理大臣、そしてその後継内閣を叩き潰したのだ。だからこそ、後世で語られるべき歴史的時代だったとも思う。
ついでに言えば、アフターコロナの自民党内閣は、先代の強さもなく日和見のくせに、戦後処理もまともにできない、歴史に残らない有象無象であるとも思うので、すぐにみんな忘れてしまうだろうなあ。
深夜食堂のサイトはこちら→ https://www.shogakukan.co.jp/books/09861634