ピーマンの中にポテトサラダが入っている 予想外に旨い
お江戸ではもはや老舗級に成りつつある居酒屋チェーン「天狗」が平成後期から令和にかけてコンセプトの一大整理を行い、大型店の天狗大ホールと小型店の神田屋に収束させたようだ。天狗大ホールはランチ需要を取り込んだ、酒も飲める居酒屋的食堂になった。昭和レトロを平成生まれに売り込むというスタンスで設計された業態であり、店舗だと理解できる。
そして神田屋は、もともと焼き鳥主体の天狗小型店だったものを、大胆にメニュー整理をして「高齢者の一人飲み」として縮小再生したもののようだ。そのメニューは天狗大ホールの縮小版であり、独自性は薄いがオペレーションが優しい。言い換えると簡易版店舗として出店しやすい業態への転換だ。
だから酒の単価は安い。つまみも提供量を減らし(小皿化して)低価格に抑えるというのが焼き鳥天狗時代からの修正点だろう。
昼飲み・一人飲み需要を取り込めば、客層の違う居酒屋二毛作になる。客層が限定される朝食などに手を出すよりよほど合理的なのだ。ただ、そこに手を出して火傷したのがガストであり、早期に居酒屋併用から脱出したのが吉野家だ。
また、この昼飲み需要は比較的人口の多い地域でしか成立しない。ジジイの人口が多いからといって地方都市・田舎町では機能しない気がする。大都会のジジイのように人目を気にせず昼から酒を飲める豪傑が存在しにくいようだ。
その神田屋で面白いメニューを見つけた。生のピーマンにポテトサラダを詰めているだけなのだが、これをピーマンごとぼりぼり齧る。旨い。これはアイデア料理だなあ、などと感心した。
たまたま店の前を通りかかって、ふらりと入ってみる気になったのは、この赤い酒のせいだ。バイスサワーという、お江戸の下町界隈で飲まれている「バイス」の炭酸割りのせいだった。バイスは割材としてたまにスーパーの酒売り場などで見かける。どこにでもあるわけではない。お江戸を離れると、途端に見かけなくなる。
割材としてホッピーはすでに全国区になりつつあるが、バイスは実にお江戸ローカルなのだろう。下町が発祥の地であるIY、ヨーカドー系列の店では売っていることが多い。このバイスを飲み干す頃にはカウンター席がほぼ埋まった。客はもちろんジジイばかりだった。
天狗系居酒屋は意外と肉料理の質が高い。下手なファミレスよりグレードが高い時もある。神田屋はもともと焼き鳥主体の店だったのだから、焼き鳥、串焼きは期待できるかなと思って注文してみたが、普通に旨い。焼き加減がちょっと火の入れすぎという感じもあるが、レアで出されて腹が痛くなるよりマシだと、そこは諦めることにした。
自分でもたまに作るカツオのニラまみれがメニューにあったので、それも注文してみた。とりあえずカツオを切って、こま切れのニラとタレをかけるだけのシンプルメニューだが、酒の肴としては十分な質だろう。少なくとも提供時間は早い。チャチャっと飲んでちゃちゃっち帰る客には、実に使い勝手の良い店だ。
まあ、一人で居酒屋に入って、こんな面倒くさいあれこれを考えているのだが、これが正しいジジイの時間の過ごし方かもしれないなあ。