
帯広の街を久しぶりにのんびりと歩いた。というか、飽きるほど歩いた。仕事の出張できた時は、夕方ホテルに入って、その後食事をするときくらいしか街を歩いていない。薄暗い時間だから記憶も曖昧だし、コロナの後でランドマークも変わっていたりする。
時間があるので街を行ったり来たりしたが、記憶していたより随分コンパクトな街だった。おまけに飲食店は閉店が目立つ。地方都市の中心部は衰退する一方なのだが、帯広も例外ではなくなったようだ。そんな帯広中心部に今でも行列のできる名店がある。

お江戸でも老舗と言われている店は、店内が明るく清掃が行き届いていることが多い。蕎麦屋や天ぷら屋に、そういうこざっぱりとした雰囲気の店が多い。残念ながら町中華では、雑然とした、あるいは油染みた店が多いので、老舗とはいえ2度と行く気にならない店もある。
清掃だけではなく接客、客あしらいにも同じような気配がある。従業員の背筋が伸びたような姿、立ち振る舞いなど厳しい指導がなければ出来上がるものではない。神田の老舗そばで接客を受けた後、自宅近くのファミレスに行くと、その差は歴然だ。
その老舗の「凜とした」雰囲気が好きなのだが、この店も店内をマネージする女ボスがいて、的確に指示を出している。白い制服に身を包んだ若い女性従業員は、なんとなく看護師を思わせるキビキビした動きだった。昭和っぽい「優秀なる職業婦人」みたいな言葉が脳裏をよぎる。けして「キレキレのキャリアウーマン」みたいなカタカナ言葉は思い浮かんでこない。老舗の凄さは料理だけではないという証明だった。

丼飯の上に乗った豚肉四枚。濃い味付けで、米をうまく食べるために作られた料理だと思う。某お茶漬けのりの宣伝のように、一心不乱に米をかき込み最後の一粒まで完食して、腹をさすり満足する。そんな料理だが、完成度、満足度とも実に高いレベルにある。
どんぶりとしては決して安くはないが、価格に見合った価値、そして価格以上の満足感という意味で、やはり老舗の力は発揮されるのだろう。
「凛」としたお店はすっかり減ってしまい、代わりにフレンドリーでコンテンポラリーな店は増えた。それが悪いことだとは思わないが、寂しい気分であることも間違いない。