食べ物レポート

京都なメロンパン

京都と聞くと「雅」とか「伝統」とか、これまたステレオタイプな印象しかない。料理で言えば京懐石みたいなちまちまと美しいものを思い浮かべるか、湯豆腐のようなシンプルの極みを思い出すかだ。だが、実際に大衆的な食堂で食べることであれば、京都のラーメンは福岡を超える濃厚豚骨スープだし、京風おこのみ焼きも本場大阪を超える濃い味だと思う。いや、お好み焼きのギトギト感という点で言うと京都の方がすごい。
ただ、京都市内の街角にあるパン屋さん、ベーカリーというよりブーランジェリーという方が似合っている感じがある、おしゃれなパン屋ではまさに京都風と言いたくなるパンに出会うことがある。おしゃれ感の方向が他の大都市のパン屋とは良い意味で違っている感じがする。京都のパン屋巡りをしたことがあり、なかなか楽しい経験だった。

だから、京風メロンと書かれたパンを見つけた時は思わず手に取ってしまった。そのままカゴに入れた。あとで、袋を開けて取り出してから、なんとなく違和感があるぞと思った。袋をよく見ると「メロンパン」とは書いていない。実際のパンを見ても、あのメロンパン特有のザクザクした生地ではない。形も丸ではなくラグビーボール状だ。食べてみると生地はほんのり甘い、そして、真ん中に白あんが入っていた。なるほど、メロンパンではなく「メロン」風な味のパンだったのだ。
製造元の山一パンのサイトで確かめると、「さくさくメロン」と言う一般的なメロンパンは別に販売されている。京風メロンは、京都吟味百撰に選ばれている「折り紙つきの京都の食べ物」だった。やはりこれは畏ってありがたがるべき食べ物だったらしい。このメロンの他に、黒豆のパンやあんぱんも認定されている。うーん、京都はパンにすら格式をつけるのだなあ。なんか、すごい。

食べ物レポート

メジカ横丁

高知県で夏の終わりになると爆発的ブームになるのが「メジカ」だ。メジカとはソーダカツオのことで、その幼生体をシンコとよぶそうだ。メジカのシンコは、身のもちもち感が売り物なのだが、朝釣ったメジカは昼までに食え、昼釣ったメジカは夕方までに食えと言われるほど、身の劣化が激しいのだそうで、現地に行って釣りたてを食べるしかないという「希少な食べ物」になる。高知市内では、この時間制限に間に合わないので食べられない。多くの人がわざわざ中土佐町久礼までメジカを食べにくる。買いに来るのではないようだ。
その釣りたて捌きたてのメジカを買うために、特設販売所が市場の中に設定される。それぞれの小屋は漁師の船ごとで、漁師の奥さんたちが夫の釣ってきた魚を売っている。どの店の魚を選ぶのか、基準はよくわからないが船・小屋ごとに行列ができる。週末ともなれば三時間待ちも当たり前だそうだ。その行列ができる前に写真を撮りに行ったのは朝の9時ごろだが、9時半になると10名くらいの行列が何本もできていた。

メジカのシンコはあまりの行列の凄さに地元の人も買えない、食べられないとのこと。また、地元の人にはなんとか伝手を辿ってメジカを手に入れてくれという依頼、強要、おどし(笑)が引きを切らないそうだ。お盆過ぎからは町を挙げての大騒動らしい。高知市内から来ると、久礼の町までは自動車で一時間くらいだが、中には大阪から来たというツワモノもいるらしい。ネット社会の凄さを知らしめる事例だろう。

メジカはソーダカツオだが、それ以外のカツオ類のシンコもうまいそうで、元漁師の友人がすすめる「もんつき」という符牒で呼ばれるスマカツオを食べてみた。ふむふむと納得したのだが、どうもカツオの食レベルが低いせいで、違いがよくわからない。うまいのはうまいので文句はない。ただ、久礼の町にいるカツオマイスターの舌には遠く及ばないことはよくわかった。

最近度々お世話になっている居酒屋で裏メニューとして出してもらったが、これ以外にも色々と必殺技的裏メニューが多く、居酒屋の店主がニコニコしながら進めてくる「今日のうまいもの」を楽しみにしている。漁師町の居酒屋はなかなかあなどれない「うまいものや」なのでありますよ。

食べ物レポート, 旅をする

同名の焼き鳥と間違えた?

岡山駅近くにある百貨店の裏側は、相当に賑わう飲屋街だった。ただ、不思議なことに魚居酒屋・寿司屋が見当たらない。地元民であればみんな知っている有名店がありそうなものだが、旅先で訪れた街ではなかなか見つけにくい。いかにもうまそうな大衆居酒屋的な店はどこも満席で入れそうにない。飲み屋難民だななどとぶつぶつ言いながらさまよっていたら、どこかでみた店名がある。
北海道ではおそらくナンバーワンの知名度を誇る焼き鳥チェーンの名前ではないか。ついに、東京・大阪を乗り越え岡山まで出店したかと感動した。

いつものように セセリとつくね 

おまけに看板を見ていると、骨付鳥まであるではないか。この骨付鳥は瀬戸内海の反対側、讃岐国では圧倒的な人気商品のはずだが、瀬戸大橋を超えて岡山にも渡ってきたか、すごいぞ串鳥………と思って気がついた。脳内で店名を漢字変換したので気がついた。この店は、「串鳥」ではなく「串どり」ではないか。妙にパクった感がある。いや、たまたま同名で字が違うだけだと思う。そういえば見慣れたロゴもないしなあ。と思いつつ、これも何かのご縁かとこの店に入ってみることにした。

中に入れば普通の焼き鳥屋で、注文した焼き鳥は普通にうまかった。問題なしだ。それでも岡山の骨付鳥が気になったので、焼き鳥の追加注文は取りやめにして、骨付鳥を頼んでみた。

出てきたものは、讃岐の骨付鳥とはだいぶ異なる。と言うか、ルックスは骨付鳥とはほとんど別物で、食べてみれば味付けも全く別物だった。似ているのは親鳥の肉が固いことだけだった。料理というものは生まれたところからだんだんと変化しながら伝播していくものだと理解はしている。しかし、瀬戸内海という海を渡ると距離的には近くても劇的な変化を遂げてしまうらしい。料理の創作とアレンジの間には、これまた随分と深い深淵があるようだ。鳥料理について、また一段と学んでしまう夜となった。

食べ物レポート

姫路駅ホームのそば

テレビ番組で鉄道を取り扱う時には、とても登場回数の多い有名な場所が、ここ姫路駅在来線ホームにある立ち食い蕎麦屋だ。
ホームの蕎麦屋がどんどん消えていく時代に、今でもしっかりと存在感のある店舗?で営業中ということも理由だろうが、ネタになる最大の原因は「麺」にある。暖簾に書いてある通り「名物まねきのえきそば」を食べるとそれがわかる。

店舗が車両を模した形になっているのは「鉄道愛」あふれる経営のせいだろうか。なつかしの国鉄カラーだから余計に郷愁感が漂う。

早速、えきそばを実食することにした。トッピングはかき揚げだ。出てくるとすぐにわかるが、麺が蕎麦ではない。黄色味を帯びた中華麺だ。ただ、いわゆるラーメンの麺としての歯応えや固さなどは感じない。どちらかというとうどんよりの柔らかい麺だ。 
出汁はいわゆる関西系の濃いだしなので中華麺に負けることはない。むしろ東京で食べる立ち食い蕎麦屋の濃い味付けをはるかに超えている。この蕎麦の主役は明らかにつゆだった。

良いものを食べさせてもらった。駅そばは奥が深い。

食べ物レポート, 旅をする

カツカレーのうまい店

岡山発の土讃線高知行き特急には超有名キャラのラッピングがされている(全部ではないらしい)が、高知駅で折り返すためホームで停車している車両をじっくり眺めることができる。バイ◯ンマンは悪役なのに人気キャラのようで、中央部車両に主役級の登場をしている。一度この特急には乗ったことがあるが、内部もキャラワールド満載でなんだかほっこりとした気分になる。来年は某国営放送でこの著者が主役になるらしい。ちょっと前には牧野先生で盛り上がった高知だが、来年も朝ドラは高知推しになるようだ。

高知駅から岡山とは反対方向に土讃線を乗ると終点が窪川になる。そこから先、高知県最西部の宿毛に至るまでは、JRと直結する「私鉄」での旅だ。一度は宿毛に入ってみたいと思うのだが、あまりに遠い。高知から特急で四時間強かかるのだ。同じ時間で、高知駅から空港に行き、空路で羽田、そして東京駅まで行ける時間だ。高知は東西に長いというが、それを鉄道旅で実感したいとはあまり思わない。自動車で移動すると、宿毛のはるか手前で高速道路は終わる。自動車移動も楽ではないしもっと時間がかかる。

そんな高知のDeep西部への入り口にあたる(?)四万十町、窪川にたびたび仕事で訪れている。四万十ポークというのが売り物らしく道の駅では、「豚」料理がマックスで出てくる。お店の方に聞くと豚丼がおすすめなのだそうだ。が、それは前回食べた。今回は、絶対カツカレーにすると決めていた。
実食の結果を言うと、大変うまいカツカレーだった。カツは揚げたてなのでじゅわと熱い。実に勝つらしい勝だった。しかし、絶賛したいのはカレーの方で、当然ながらポークカレーなのだが、これが実に素晴らしい。ほぐれた豚肉が混ざっている。スパイスのバランスが絶妙で、中辛な感じのコクのあるカレールーだった。これはカツ抜きでも十分に堪能できる。問題は、このカレーを楽しむために、一体どれだけの距離を移動しなければならないかと言う点にある。
うまいものを食べるにはそれなりに代価を支払わなければならないのは理解できるが、カレーの十倍近い交通費をかけるとなると、そうそう簡単には堪能できない。実に悩ましいカレーと出会ってしまった。

食べ物レポート

満洲のつけ麺

久しぶりに「満洲」に行ったら、つけ麺が登場していた。以前のつけ麺とはちょっとスープが変わったらしい。それと、麺の大盛りが注文できるようになっていた。このチェーンのオペレーションについて、外食各社はよく研究したほうが良いと思う。チェーン店に限らず、ラーメンを中心とした町中華を経営する中小企業も学ぶべき点は多い。
その最大の特徴はメニューを増やさないということだ。季節感を出すために月替わりで登場する期間限定メニューはある。ただ、このメニューが定番化されることはほぼない。それどころか、人気商品であった鳥唐揚げは定番から外し、季節メニューですら登場しない。おそらく、主力商品である餃子とぶつかることが唐揚げ排除の理由だろうが、それ以外にも理由はありそうだ。揚げ物メニューがオペレーションラインを複雑にする。なべふりだけで全てが完結するオペレーションの邪魔なのだ。
餃子を売り物にするチェーン、町中華は多いが、フライヤー、揚げ物を放棄できる店は少ない。大阪発の餃子チェーンは、京都初の餃子チェーンはメニューが無限大に増殖している。福島初のラーメンチェーンは、なぜかそれと同じようにメニューを複雑化して町中華に変容したいようだ。ただでさえ商品の品質がばらついている現状を無視しての暴挙とも言える。
急速に店舗数を増やしている新興ラーメンブランドは、メニューを無駄に増やさない。スープ数種、麺を数種、トッピング5ー6種の順列組み合わせだけでバラエティー感を出している。これが守れるか守れないかが、大チェーンへの関門となるはずなのだ。

だから、季節限定の「つけ麺」を食べてみるとわかるのだが、完成度はあまり高くない。というか本気度が感じられない「なんちゃって商品」だ。だが、このチェーンは時々意図的に「なんちゃって商品」を投入してくる。そもそも季節限定、期間限定商品は圧倒的な固定客への季節のサービス的なものと考えているようだ。週1回のペースで通ってくる常連客に、たまには変わったものも出してますからねとアピールするだけが目的とも言える。
このつけ麺で新しい客を呼び込もうという気配はない。だが、それでいいのだ。チェーン店でありながら地元の固定客を増やす戦略として正しい。経営の軸足は固定客の満足に置かれている。そして、新商品をばらばらと投入する代わりに既存商品の質を上げている。
まあ、そんなことを考えながら「なんちゃってなつけ麺」を食べていたので、文句をつける気もない。また、来年になったら改良版が登場するだろうから、つけ麺は定番にしなくても良いよ。つけ麺なくても、いつものウマ辛菜麺で満足してるしね。

食べ物レポート

梅田でがんこ

ひさしぶるに梅田に来たので、懐かしの大阪風握り鮨を食べようと記憶を頼りに「がんこ寿司」を目指した。店の前に辿り着き気がついたのだが、店名に寿司がなくなっている。どうも寿司屋から総合和食屋へ全社あげて転換したらしい。だから、鮨屋だと思っていたら定食も肉料理もなんでもありになっているのだが、それはそれで好ましい変化だ。特に、肉寿司が寿司屋で食べられるのは、かなり嬉しい変化だと思う。
ただ、今回の目的は握り鮨であり、大阪風押し寿司も食べて見たい。だからあまり浮気をするわけにもいかない。腹の容量問題があるからだ。

はもちり というらしい

まず最初に頼んだのは、夏場の関西に来ると必ず食べたくなる「はも」だ。湯引きとか、おとしとか、色々呼び名はあるようだが、丁寧に骨ぎりをした鱧を梅肉で食べるのは、夏限定な無常の喜びだ。ここでは「はもちり」というメニューになっていて、ちょっと混乱したが、ビジュアルも含め美しい商品を堪能した。

さばたく

ふた品目は「さばたく」にした。さばと沢庵を合せたもので酢の物の変形料理という感じだった。さば好きとしては、これまで食べたことがないことを大いに悔やむ「旨いさば料理」だった。自宅でも簡単に作れそうだし、これだけもう一皿お代わりしたいくらいだった。

ランチの握りは定番のネタだが、たこに甘だれがついているのが嬉しい。シャリはちょっと多めだから、お腹ぺこぺこなヒト向けのお昼ご飯としては最適だ。個人的にはもう少し小さいシャリ玉にしてくれると嬉しいが。ネタも大振りなので、本当にボリューム感あふれるランチ寿司だった。

どうしても追加で食べて見たい「ゲソ」を一貫だけ注文した。タコもそうだが、ゲソにも甘だれが塗られていると旨さが10倍くらいに跳ね上がる(個人的感想です)

この日、午前中ですでに30度越えの猛暑日で、とりあえず冷たいビールも合わせていただくことにしたが、ビールに最適の肴は「暑い日向を歩き回ること」だと改めて確信した。が、あまり頻繁に使えない危険な技でもありますねえ。歩き回るのは程々にして、美味しいお料理をいただきました。

食べ物レポート

廉価版の肉まん

9月まで9月中旬になっても暑い日が続く。すでに日本では5月から9月まで猛暑期となっているので、冬には雪も降るが「亜熱帯」認定して良いのではないか。それでも企業の企画担当者は、古き良き伝統に従い9月になると秋物商品を一斉に投入する。
夏の間は販売していなかったヤマザキの肉まんが9月になると発売開始された。ちなみに9月1日の気温は真夏日どころか36度越えだった。冷房を効かせた部屋で熱々の肉まんをどうぞ召し上がれということらしい。
さて、この4個入り肉まんは約300円。各メーカーが販売している肉まんの中で最安値だろう。ちなみに、一個当たりの重量は90g程度なので、まんじゅう業界(?)の中では一番小ぶりだ。つまり、小さいけど安いから勘弁してね作戦をとっている。

断面を見ると、圧倒的に皮が厚い、というか皮がほとんどだということがわかる。これは「皮」を食べる食べ物なのだ。他のまんじゅう屋とは設計思想が異なる。それはそれで良い。この小ぶりな肉まんを二つレンジアップして、朝飯にするとちょうど良い量になる。トーストにハムやベーコンを乗せたものの代用品として考えれば、皮の厚さ自体が意味がある。
この肉まんをチープというのは、肉まん業界から見た視点であり、消費者視点、利用者の使い勝手という点から見れば、「朝飯肉まん」としての完成度は十分に高い。2個食べても150円程度、コンビニのおにぎり一個と変わらない。高くて美味しい肉まんを作ろうとせず、「肉まんに似たもの」を大量生産販売する、したたかなヤマザキの戦略と考えるのは、考えすぎなのだろうか。

街を歩く, 食べ物レポート

夏の終わりの十徳

久しぶりに新宿で知人と会うことになり、あれこれ行く店を考えてみたのだが、やはりいつもの居酒屋を選んだ。新宿には東西南北(笑)に好みの店があったのだが、コロナを境に古い店はどんどん閉まってしまい、今では片手で足りるほどの店しか営業していない。
西新宿ではこの店ともう一軒、古い焼き鳥屋くらいだろう。歌舞伎町の中はもはや別世界だし、東口にある新宿アルタ近くの店も長い間休業していた。3丁目で行きつけの店は随分と閉店してしまった。ああ、残念。

さて、この日楽しみにしていたのは「トマトのお浸し」だった。実はこれが食べたくてこの店にしたと言っても間違いない。トマトはすでに通年商品だが、なぜか夏になるとあちこちの店で「トマトのお浸し」をメニューに追加してくる。
湯むきしたトマトを出し汁につけただけというシンプルさが良いのだ。トマトは生食も良いが、出汁との相性も良いので、一人でこれ一個くらい食べてしまう。酒の肴というよりサラダの一種だろう。

マグロのたたきというのは珍しいが、個人的な感想を言うと、これはたたきではなくローストマグロではないかなと思う。カツオのたたきは、カツオ特有の血の味、ヘモグロビンの味?を和らげる。ただマグロはカツオよりマイルドなので、表面を炙ったくらいではあまり味の変化はしないように感じる。まあ、普通に美味しいが逸品と言うほどでもないか。

カンパチだったかシイラだったか、魚のフライはごく普通にうまい。魚は下味をつけたものをあげるとなおさら旨いのだが、今回の下味は微妙すぎてよくわからなかった。でも、美味い。白身魚のフライにタルタルソースをかけて食べるのよりもはるかに美味い。(個人的感想です)

冷やしワンタンは秀作だった。冷たいワンタンを濃いめのツユにつけ食べる。実に好みであった。夏らしい涼しげなメニューだ。これが餃子だとちょっと違うなと思わせるので、やはり料理人の腕前をいうものだろうか。ワンタンのツルッとした食感が素晴らしい。まさに夏の一品だった。拍手。

夏野菜のサラダは辛めの中華ドレッシングが良い仕事をしていた。添えられていた揚げワンタンのクリスピーなカリカリ食感が爽やかな感じを増幅させる。しゃきっ……と、ぱりっ………が合わさったサラダで、味というより食感で楽しませる一品だ。

やはりこの店は料理が素晴らしいものだらけだが、日本酒と合わせた時の仕立てになっている。料理好きの知人友人を連れて行くのも良いが、やはり一人で行ってチビチビぬる燗の日本酒を飲む方がもっと良い使い方な気がする。

食べ物レポート

信州名物 野沢菜のおやき

自宅近くのスーパーにて、期間限定ご当地名物コーナーで発見した

長野県の郷土食として有名な「お焼き」だが、30代中頃までその存在を知らなかった。二十代に北海道から転勤してきて埼玉県の地方都市で暮らしていた。まあ、金もなく知識もなく、何が美味いとか何が名物だという情報を全く持ち合わせていなかった。
一年ほど米国で暮らしたあと日本に戻ってきて、日本の食事とはなんなのだろうという問題意識が芽生え(笑)、あれこれと有名な食べ物に挑戦するようになった。その頃は埼玉の地方都市から川崎という大都市に引っ越しをしていて環境が良くなったせいもある。
その後、仕事で全国の著名な食べ物を研究する機会があり、その中で信州お焼きを知ったが、実食したのはその一年後だった。今振り返ると、インターネットでの情報検索などかけらも見えない時代で、情報とは「書籍」「雑誌」から得るもの、あるいは口コミが有力手段だった。だから、20-30代の貧乏サラリーマンに高い情報収集能力を臨む方が無理な時代だったように思う。相当な本購入代金を負担できる経済力、口コミを動員できる人脈形成、どちらも若いサラリーマンには手の届きにくい「知財」だったはずだ。
だから、初めて「お焼き」を食べた時はドキドキしていたものだが、実食してかなり残念感があったのは記憶している。今思い出しても笑ってしまうのだが、その頃から情報を美化して過剰な期待を持つ性癖があったようだ。その後、お焼きは何度も食べる機会があり、手頃な昼飯として好物になったのだが、初見時は「がっかりなたべものだなあ」という諦めと共に食べた。
その憧れと失望のない混じった食べ物が、今では普通にスーパーで売っている。流通の進化のせいか、情報が行き渡ったせいか、よくわからないが、地域の特産は現地に行って食べるものという常識はもはや存在しない。

袋から出す時に割れてしまった

もともと、お焼きとは野菜の漬物などを小麦粉で練った生地の中に入れ、囲炉裏の灰の中で加熱したものらしい。だから中に入るものは甘い味、しょっぱい味にこだわらず色々とある。小豆あんの入ったものは定番だが、野沢菜漬け、茄子の味噌炒め、切り干し大根など実に多彩なバラエティーがある。個人的に野沢菜漬けの入ったものがいちばんの好みだ。

生地はイーストやベーキングパウダーが入っていないのでふかふかはしていない。厚手の餃子の皮と言っても良い素朴な生地だ。だからつくる時の皮の厚さによって仕上がりも変わる。製造メーカーによって生地の厚みには随分差があるので、好みのメーカーを見つけるのも楽しみだ。
ちなみに、お土産で販売されているものは中の具材もたっぷり、生地も厚めのものが多いように感じる。個人的な好みで言えば、長野のローカルスーパー・つるやのPB品が一押しなのだが、これは現地に行かないと買えない。おまけに自社工場で製造したものを配送するので、場所によっては当日の昼過ぎから午後にならないと入荷しない。なかなか手に入れるのが難しい商品だ。

通販では冷凍品もあるので全国どこでも調達可能だが、こればかりはやはり長野県の現地で食べよう、と言っても長野は広いしあちこちでローカルお焼きがあるから、どこの現地に行って食べれば良いのか迷う。
長野市に行って善光寺参りをし、帰りに門前町でお焼きを土産に買うというのが一番ポピュラーなお焼き調達ルートかもしれない。
不思議と肉入りお焼きとかチーズ入りのおやきを見たことがないが、これも近い将来、お土産専用品として出現しそうだ。京都の生八ツ橋的な奇形進化をするのは時間の問題だろう。ただ、自分で食べてみたいとは思わないけれどね。