
ひろめ市場は朝10時開店とともに、飲み始めるオヤジ・オバンに溢れている。これは現地住民がほとんどだと思うのだが、11時くらいになれば観光客が出動してきて、一気に賑やかになる。
ここ数年は、そのリズムをぶち壊しにするインバウンド客・非日本語使用団体客に客席が占拠され、まるで日本ではないような喧騒が起こっていた。ここ一月ほどの彼の国の政府による観光自粛のため、その賑やかで姦しい集団がいなくなっていた。
コロナ前のひろめ市場はこんな感じだったなあと、すっかり懐かしく思い出した。ここ数年はひろめ市場で酒を飲む気にもならなかったが、今のこの状態であれば楽しく過ごせそうだと、よく使っていた店で酒のつまみを手に入れた。

定食屋でガラスケースの中にあれこれ小皿に入った料理が並んでいる店がある。サラダや煮魚やフライなど、好きなものを好きなだけ取るシステムだが、それの居酒屋版とでもいうべきだろう。
刺身や酢の物、煮物などが並んでいる。それを何品か選び合わせて酒も注文する。ひろめ市場のこのスタイルは、最近の言葉で言い換えればフードホールとでも言えば良いのだろうが、感覚的には屋台村だ。壁際に並んだ色々な店から多種多様な料理を買ってきて、セルフサービス居酒屋になる。今回は、ウツボのたたきと蛤の煮物にしてみた。高知名物のカツオや鯨もあるが、気分的には「ウツボ」だった。

ウツボのたたきは好物で、機会さえあればいつでも注文したい。たたきと言っているが、ゆがいたウツボなので「生」ではない。厚めに切ったウツボを、鰹のタタキのタレ、ニンニクやネギなどと合わせて食べる。皮目のコリコリとしたコラーゲン部分もうまいが、コクがあり弾力に富んだ白身が絶品だ。ウツボは唐揚げにしたり、すき焼きにしたりするのだが、やはり「叩き」が一番うまいと思う。
高知の知人に聞いたところ、日本でウツボを常食にしているのは高知県と和歌山県だけらしい。確かに、鱧や穴子はあちこちで名物料理になっているが、一番獰猛そうな顔つきのウツボは嫌われているらしい。
漁師の友人に言わせると、漁が難しくなっているせいでウツボの価格は高止まりしているが、なかなかウツボ漁師は増えないそうだ。おそらく資源的には問題はないのだろうが。
流石に週末であれば、インバウンド観光客+日本人観光客で大混雑していそうだが、それでもあの歩くのも難しい混み方ではなくなっていた。ひろめ市場を楽しむのは、いまがチャンスだ。まあ、あと何年間か、お国による日本旅行規制が続いてくれれば、日本中のあちこちでオーバーツーリズムが解消されて、バランスが良くなりそうな気もするのですよね。
と、ウツボを食しながら国際政治に思いを馳せておりました。