
恵比寿の飲み屋街、その中に一軒の中華料理屋がある。かれこれ40年近く営業していると思うのだが、最初は内装も簡素な不思議な店だった。飲料メーカー名が入ったベンチが店内に並んでいる。まるでビーチハウス、海の家のような簡易店舗だった。おまけに看板には長崎ちゃんぽんと書いてある。中華料理屋と言うよりちゃんぽんの店だったらしい。
厨房で腕を振るうのはマレーシアの人だった。味付けが日本的な中華料理とはちょっと違うが、麺の腰が強いので気に入っている店だった。しばらくはいついってもひまそうだったが、ある時から急に混雑し始めた。
何度か店内を改装して、海の家からちょっとほの暗い山小屋風居酒屋的なイメージになったあたりからだ。どうやら夜の営業に力を入れるらしいとわかった。そこで、ふらりと夜に行ってみたら、なんと中華居酒屋になっていた。
今のように、町中華で酒を飲むなどと言うことが流行っていない時代だったが、個人的には中華居酒屋的メニューが気に入ってよく通うようになった。いつの間にか人気店になり予約をしないと夜は入れないこともあるほどで、それはそれで困ったものだなあ、などと思っていた。
その店で久しぶりに昔の仲間たちと一杯やることにした。ただただ懐かしい気分だったのだが。

この店で初めて食べたのが「めんまの炒め物」で、それ以来ずっと注文する第一定番だ。もう一つの名物は、長崎産すり身で、これは厚手のじゃこ天みたいなものだが、なぜ中華料理屋でこれが出てくるのかよくわからない。ちゃんぽんに乗っている揚げたすり身のようなものなのかもしれないなあ、などといつも不思議に思いながら食べている。独特の魚臭さがあるので、さつま揚げや蒲鉾とは系統の違う魚練製品なのだろう。
そして、なんといっても目立つのが鳥の唐揚げで、こちらは平く伸び切った唐揚げだ。あちこちで売っている、鳥のぶつ切りを揚げたものではなく、平に伸ばした鶏肉をそのまま厚め目の煎餅のように仕上げたものだ。一枚食べると満足するボリューム感がある。

今回初めて食べたかもしれないのが、このアゲ麺の乗ったカリカリサラダで、今までなぜ食べたことがなかったのだろうと頭をひねることになった。カリカリとした食感がうまい。中華料理屋でサラダという感覚がなかっただけなのだと思うが。それともここ最近できた新メニューなのかなあ。
さらに驚くべきことだが、壁に書かれたメニューに「パクチー料理」がデカデカと乗っていた。これも時代の変化だなと感心したが、パクチー大好き、デトックス大好きな若い女性はあまり来ない店なのだ。そんなおっさんたちの集まる店でもパクチーを食べるようになったのかと驚いてしまった。というより、呆れてしまったというのが正しいかもしれない。
そんなことを考えていたら、隣の席に制服を着た女子高生(多分)がやってきて、思わず狼狽えた。女子高生の来る店ではないのだがなあ、などと思っていたら、みるからにチャラい系男子が引率してきたようで、女子高生の前でビールを飲んでいるではないか。なんともシュールな光景だと思った。女子高生の目の前でビールを飲むヤンキーみたいな映画に出てきそうなシーンというかイメージえいぞうが浮かんできたが、本当にそんな奴がいるとはねえ。時代が映像に追いついたらしい。
いや、あれは女子高生のコスプレをした上級コスプレヤーだったのかもしれないと、後から思いついた。どんくの夜は、どんどんと令和的な変化を起こしているのだな。
相変わらずカオスな夜の恵比寿でありました。