戦後80年とか昭和100年と言われる、2025年はあれこれと戦前の話をするものが多い。右翼も左翼、どちらも自分たちの思想強化?教化?のために論陣を張っているようだが、どれも歴史というもの理解というか把握に課題があると思う。まあ、退陣する首相が辞めぎわに何をか言わんと思うが、同家のように戦後のおさらいをしたがっているのだから、日本人にはおバカが多いと言われても仕方がない。
今更、現代日本史を語るのであれば、せめて明治以降のイケイケどんどん制作を推し進めた巨大新聞の記事を見直し分析すべきだろうし、敗戦後の新聞の手のひら返しの論調の裏付けもとらなければならない。こうあれかしと思う過去を幻想し、ネットの中に落ちている都合の良い記述を拾い集めるなど、歴史を語るものがすることではないだろうなと思うのだが。少なくともとも保守派の論調に出てくる日本の伝統なるものは、その大半が明治期に作り上げた「新興習慣」であり、リベラルサイドがぶち上げる民主主義や平和主義などは、昭和中期以降に出来上がった概念でしかない。旧大日本帝国の生態を含め批判するのも賛美するのも、趣味の世界でやるには害がないが、押し付けるのは勘弁してほしいと思うのだ。
その大戦前の世界で、最も日本人の欲望が蠢いた地域が満州だったと思う。戊辰戦争に勝利した貧乏な革命日本政府が、ほぼ50年がかりでようやく手に入れた大規模植民地だ。その経営には、さぞかし気合が入ったことだろう。
当時の満州は様々な民族が入り混じって混沌たる社会を作っていた。大陸にいる華人ですら正規軍(革命政府側)と犯罪者扱いされた馬賊(革命武装勢力の一部)が対立し、そこに侵略勢力である帝国陸軍、そして旧清朝帝国の没落貴族が入り乱れ利権を争う、まさに混沌とした社会だ。
日本からは海外移住という形の棄民政策が推し進められ、現住する諸民族と軋轢を深めてている。法治などという言葉は忘れ去られた暴力世界だったことだろう。
その混沌社会の満州で、ケシを栽培しアヘンを密売する組織が、どう生まれどう成長していくかという物語なのだ。話の根底は不幸なものたちの集団が、社会の軋轢や差別から立ち上がる怒りがある。搾取される側から搾取する側に立ち位置を変えたいという渇望がある。その手段が麻薬中毒者を作り出し借金地獄に落とし込むことにあり、誰かを蹴落として自分たちが浮かび上がるという、カンダタの系のような世界だ。救いがないと言えば、確かに救いがない。少年誌では決して載せられない物語だろう。エロやグロを超えた「知らせてはいけない世界の存在」精密描写だからだ。
アヘン密売業者も悪だが、それを妨害する組織、帝国陸軍、華人犯罪者集団、地方警察、すべのがさらに悪どい「悪者集団」として描かれる。お話のどこにも正義は見当たらない、ダークファンタジーだ。だからこそ、人の心の奥底にある何かいけないものを見たがる精神に働きかける。
お話のゴールは大戦の敗北により帝国陸軍が敗走し、守るべき民を見捨てるあたりだろう。大陸と半島に在住した日本人の大脱走に紛れて、アヘン密売組織がどこで生き延びるのかが最後のテーマになりそうだが。案外と日本には戻らず、東南アジアあたりで麻薬王になりましたという落ちかもしれない。まだ話は中盤程度、この先が楽しみだ。
全巻一気読みをお勧めします。戦後80年をまとめる訓話(笑)より、よほど歴史を学ぶのに向いている良書であります。
