
新宿紀伊國屋本店の地下にある食堂街は、耐震工事の時にテナントが入れ替えになり一新された。今でも生パスタの店やカレーの店は残っているが、伝説的に混雑していた居酒屋は靖国通り沿いのビルに移転した。席数も増え使い勝手の良い店位になったので愛用している。
昼営業のランチも充実しているので、ビジネス利用ではたいへんありがたい。

店名の由来は知らないが、この漢字の音を当てた名前は、何やら昭和の怪しい時代によく見かけた。昭和の終わり頃から平成にかけてはすっかり廃れてしまった漢字の音当表て表記だが、どうやら昭和の暴走族がいなくなった頃とリンクしている気がする。当時の突っ張り少年も今や後期高齢者の仲間入りだしね。
平成はおしゃれな横文字、それも読み仮名なしのアルファベットだけ、というのがずいぶん流行った。レストランもクラブもラブホも、読み方のわからない店名で溢れていた。

この店のお通しは、実にお通しらし。どこぞのチェーン居酒屋で出てくる『工場製ポテトサラダ』をお通しにする暴挙とは程遠い。本来のお通しは無料で、料理が出てくるまでの繋ぎとなる小皿的なものだろう。今ではすっかり有料お通しが当たり前になり、実は居酒屋の経営は有料お通しの稼ぎで持っているようなものなのだがら、昭和が産んだ歪んだ食文化の代表とも言える。それでも美味いお通しであれば我慢もするが、工場製のポテサラやひじきの煮物などが出されると、腹を立てる若者が多いのは理解できる。(ちなみに年寄りは何十年も続いた風習に諦めしか感じない)
だから、このお通しはぴかりと光る。秀逸な一品と言って良い。

さて、この日はまず鱧の湯引き、茄子の煮浸し、地鶏の串焼きという、かなり健康志向の料理で始まったのだが、2ラウンド目になると同行者の強力な好みが発動され、テーブルの上はあっという間に茶色軍団な揚げ物で占拠された。
なんでも家庭では健康志向の食品しか出してもらえなくなり、こういう「脂に満ちた食べ物」は外食するしかないとのこと。付き合わされた身としてはコメントを控えるしかない。
クリームコロッケなど絶品ではあるが、どじょうの柳川とかお江戸の伝統的な料理もたくさんあるので、そちらの方を試してもらいたいのだけれどね。
もはや美味しい居酒屋は文化遺産扱いにして保護しなければいけないと思う、今日この頃であります。