街を歩く

普段頼まないもの

札幌市中心部の東側、創成川を挟んだ東地区は開拓初期の住宅地だった。サッポロビールの最初の工場があったり、北海道神宮の頓宮もある。創成川は人工の運河であり、開拓気の最重要交通ルートであったから、その東西両側に街並みが形成された。
今では西側ばかりが目立つ場所となっているが、東側はなかなか趣があるところなのだ。そこにはビルに囲まれた一角、裏通りに面した居酒屋が長い歴史を重ねている。
おっさんの一人飲み聖地とでもいうべきか。昔はあちこちにあった角打ちや小皿料理が置かれた一杯飲み屋も今ではすっかり姿を消したので、この店の存在は貴重だ。

そして、最近この店で凝っているのが、今まで居酒屋で注文したことのないメニューを頼んでみることだ。前回はハムエッグを頼んだ。往年の名スターのような、燻し銀の洋食メニューだったと思われるハムエッグは、意外にも冷酒によく合った。なぜ今まで注文して来なかったのかが不思議なくらいだが、やはりハムエッグは朝飯のおかずという意識しかないせいだろう。
そして今回は、とろろ芋のすりおろしにした。これは蕎麦屋に行くととろろそばに合わせて出てくる。外食するときに全く頼んだことがない食べ物ではない。マグロの山掛けなどではお馴染みの素材だ。
しかし、これを酒の肴にするとは想像したこともなかった。すりおろした芋だけなのだ。こんなものがメニューにある理由がわからない。が、しばし考えてみた。この店は酒の肴というか締めで蕎麦を出す。当然、その中にはとろろそばもある。だから、トッピングとして存在するすりおろし芋を、メニュー単品化しただけと考えれば納得はいく。蕎麦屋で頼む焼き海苔みたいなものだ。
さて、実食してみた。これは美味い。酒の肴としては最強ではないか。これまた食わず嫌いをしていたかと反省したが、よく考えれば居酒屋ですりおろした山芋がメニューになっていることは少ない。長芋千切りというメニューはたまに目にする。すりおろしたとろろ芋は麦トロ定食についてくるものだ。目から鱗だった。
自宅飲みをするときに、目一杯すりおろした芋で酒を飲んでみるかと思ったほどだ。

柱にかかった本日のおすすめを見て、次回のチャレンジ品を見つけた。「豚」モツ煮と「豚」ハヤシライスだ。豚大好きな北海道民であれば、牛ではなく豚を使った料理に変化するのは当たり前とも言えるが、ハヤシライスの原型はハッシュドビーフだ。牛肉料理を豚肉仕様にするとは野蛮ともいいたい暴挙だが、北海道らしい。ちなみに肉じゃがも牛肉ではなく豚肉を使う。お江戸の友人に、それは肉じゃがではなく「ジャガ・ブー」というのだと揶揄われた記憶がある。確かにハヤシライスがハッシュドポークになるとは、想像の域を超える。

居酒屋はやはり楽しい。

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