
冬の真っ最中に、夜散歩で見つけた「元・屋台の餃子」屋が入ったビルに、ようやく辿り着くことができた。開店が17時だと思い込み、その時間に合わせてノコノコと出かけたら、なんとほぼ満席。あれまあ、と思ったが開店は16時だった、あぶないあぶない。
その後、10分もしたら席待ちの行列ができ始めたのだから、高知の人間はなんと酒に関して勤勉なのだろうと感心したのだが、どうも客層の半分は高知県外から来たようで、西国各地の言葉が飛び交っていた。

メニューは意外とシンプルだが、そもそも初めて行った初代屋台の餃子屋の時から、餃子とビールとラーメンくらいしか置いていない、お手軽な屋台だったと思う。メニューはその時代から続く「歴史的」なものだろう。
謎のメニュー「カムカムカール」などというものがやたらと気になるが、ごくごく普通な居酒屋のつまみが並んでいる。値段は随分とこなれている。懐には優しいが、あまり頼みすぎると胃袋には優しくないので、品数を少なめに厳選して注文するのがソロ飲みする時の絶対条件だ。ご当地的メニューとしては。「ちくきゅう」とか「なまぶし」という高知特化のメニューもあるが、ここはあえてシンプルに餃子だけにしてみた。

この屋台の餃子は焼き餃子というより揚げ餃子だ。鉄鍋にたっぷりの油を入れカリッと焼き上げる(カリカリにあげる)スタイルなので、熱いうちにハフハフ言いながら食べたい。一つ一つは小ぶりなので、ほぼ一口サイズと言って良い。これを一皿サクサクとやっつける頃には酒のおかわりが欲しくなる。酒のおかわりと一緒にもう一品注文してみたが、出てきたものは自分の脳内にあるイメージとは全く異なるものだった。

高知県の特産品の一つにニラがある。日本で何番目の生産量だったか忘れたが、かなり有名なニラ産地だ。そして、これが高知特有の困ったことなのだが、産地として有名になっている作物、つまりニラやナス、ピーマン、生姜などは県外輸出中心で県内消費は無視されることがある。
農協が露骨な販売調整をする。あるいは農業販売団体がカルテルのような(当時はそう思ったものだが)販売者選定システムを仕組んでいたりして、なかなか自由な商売が難しい。(今は改善されたかもしれないが)要するに農業ギルドのような者がある。
県内でも自県産農産物で大きな量の取引をしようとすると、あれこれ面倒なことになるらしい。
閑話休題。だから、高知市内のあちこちでニラのメニューは見かけることが少ないし、県産ピーマン使用のご当地料理も気が付かない。「ナスのたたき」ですら見かけるのは稀なことだ。
なので、ニラ玉というメニューを見て「おー」と素直に感心した。頭の中のイメージはニラを醤油で炒めたものが卵とじ的になっている「卵の炒め物」だったが、なんと茹でて冷やしたニラに卵の黄身が乗っているではないか。

言語的に言えば、これはニラ玉で正しい。構成する原材料をしっかりと記述している、そこに嘘偽りはない。「ニラには味がついているからよくかき混ぜて食べてね」といわれた。なるほどと素直に納得し、卵かけご飯の要領でぐりぐりと混ぜてみた。
何やらちょいとルックス的には問題があるというか見栄えの悪い薄緑の代物が出来上がった。とりあえず一口食べて、また驚いた。美味い。シンプルに美味い。これは自宅でもっと大量生産して食べてみたいと思うほどだ。感覚的にはニラの黄身のせ(あるいは黄身まぜ)サラダという印象だった。
確かに屋台で出すつまみとしては、これは作るのも簡単で出すのも早い。餃子の油っぽさと合わせて食べるとうまさ倍増する優れものだ。高知人という南方系日本人には酒の肴を作り出す天才的な才能があるようだ。同じ南方系で太平洋岸の宮崎や鹿児島では、これほどの「肴」を見たことがない。すごいな、高知人。
ということで、今度はお江戸の居酒屋でニラ玉を集中的に頼んでみようか。
ただ、似たような食べ物を札幌のおでん屋だったか焼き鳥屋だったかで食べた記憶がある。あれは日本の北と南で並行進化して双方独自に生み出されたものなのか、それとも高知発で北海道まで伝わっていった「よさこい」みたいなものなのか、そこが気になるなあ。