街を歩く

駅のそばの蕎麦 お江戸の華 

最近めっきり減った山菜蕎麦は冷やしにかぎるぞ

二週間近く旅をしていて、お江戸に帰ってくると不思議と食べたくなるものがある。それは駅の立ち食いそばだ。最近では随分と値上がりしていて、お気楽に食べられるものでもなくなってきたが、実は立ち食いそば、それも駅周辺の店はお江戸の象徴であると思っている。
首都圏では各駅に存在するくらい一般的な立ち食い蕎麦屋だが、地方都市に行けば(当然だが)乗降客数が少ない駅が多く、駅構内あるいは周辺に立ち食い蕎麦屋があるところは激減している。
逆に自動車社会である地方都市では幹線道路沿いにそば・うどん・ラーメンのドライブイン方式の店が嫌というほどある。立地が駅前から道路沿いに変わっただけなのかもしれない。


だから、首都圏の駅そばは徒歩行動者にとって実にありがたい。できれば駅構内ではなく駅の近くにある個人店に行きたいところだが、それもコロナの影響で随分と閉店してしまった。
JR高田馬場駅の立ち食いそばも、首都圏外食事情の変化もあいまり駅ナカ店はすっかりおしゃれになり、注文も自販機で買った食券の番号を呼びだす仕組みに変わり、21世紀にふさわしいキャッシュレス立ち食い蕎麦屋になってしまった。それがちょっと悲しい。それでも電車に乗るまでの3分間でツルッと行けるのは捨て難い魅力でもある。
夏の気配がし出した5月なので、冷たい山菜そばにしてみたが、やはりチープなうまさは健在だった。

その後、また朝早くの便で仕事に行くことになり、朝飯かわりに品川駅で立ち食いそばをたべることにした。この駅ナカ店舗はJR東日本子会社の直営店だから、実に小綺麗な店なのだが品川駅という巨大ターミナルにあるだけに朝から大混雑で、なんと客席(?)誘導係までいる繁盛ぶりだ。
味に関しては立ち食いそばとして普通で、あまり特徴が感じられない。が、JR東日本飲食事業の特徴は、「特徴がない」ことなのだ。首都圏という日本全国から移民が大量に流入してくる土地では、そもそもお江戸流というものがない。あるとすれば全国のありとあらゆるローカル要素を全部混ぜ合わせたハイブリッド、ミックスしたもの、つまり特徴がなくなるということになる。
誰からも絶賛されはしないが、誰からもまずいと言われない平均的な味こそ、お江戸で生き残る大事な要素だ。お江戸が発祥と言われる蕎麦でさえ、ルーツをしっかり調べると異なる地方のミックスカルチャーであり、まざりものの典型だ。
そもそも家康による江戸開基まで、江戸は東国の田舎町、ヒナなる場所でしかなく、開基以降の人口流入により、全国のあれこれが混じり合ってできたものだから威張ってみても仕方がない。江戸っ子といきがる人の大半は、そのご先祖を50年も遡ればどこかの田舎町の出身者であることが多い。かくいう自分も5代遡れば富山の水飲み百姓にあたる。4代前が北海道で一山当てようと故郷を逃げ出した、明治政府棄民政策に騙された者の子孫だし、先代、つまり父親は田舎町で農業をするのを嫌い大都市のサラリーマンになった。
なんと大都市住人のほとんどは、そうして生まれ故郷を脱出?逃亡?してきた者の成れの果て。その逃亡者たちの膨大な食習慣を丸っとまとめたものがお江戸の食文化だろうに。

きつねそばだけは、関西の駅そばの方がうまいと思う 例えば天王寺

品川駅で食べたのはいつものきつねそばだ。出汁の濃さも普通、あぶら揚げの味付けも甘すぎず辛すぎずに中庸で、ネギの量も控えめ、どことをっても中位というか普通というか。でも、電車に乗る間の朝飯にはこれくらいのライトさで良いのだよね。

ちなみに、品川駅山手線内回りホームにある立ち食いそばは、これとは正反対の嗜好品で「濃い味」「濃い色のつゆ」「油っぽいぼてっとしたかき揚げ」「茹で置きしたちょっと柔らかめの麺」という超個性的な蕎麦が楽しめる。
たまたまこの日は混み合っていたのでホーム蕎麦は諦めたが、ホーム蕎麦の方が昔ながらの立ち食い蕎麦だと感じるので、ご興味あれば一度お試しあれ。
かき揚げを乗せた品川丼(たしかそんな名前だった)は、朝飯で食べては行けないボリュームでおまけにハイカロリーだが、体調万全であればチャレンジする価値ありだ。

コメントを残す