
北の街さっぽろの繁華街にある狸小路、その一番良い場所に立っていたサンデパートの地下に中華料理屋があった。サンデパートは廃業し、そのビルは商業テナントが多数入る怪しく楽しいビルに変わったが、この町中華は変わらず営業していたが、残念ながらビルごと建て替えられてしまった。
その後もこの中華料理屋は都心部、大通りの東のハズレに転居して営業を続けていた。その店に久しぶりに行ってみた。なんと醤油ラーメンに限り昭和の値段で売っているという、ちょっと涙が出そうな美談なのだ。北の街では数少ない町中華の店として長く営業を続けてもらいたいものだ。

さて、この店は安くて普通に美味いという町中華の見本のような店だが、中でも推奨したいのが酢豚だ。酢豚が好きなので、全国あちこちにいくたびに食べているが、実はこれほど名前と中身の一致しない中華メニューはないと思う。
個人的に思うことだが、酢豚という名のメニューは地域差が極めて大きい。基本形として揚げた豚肉を野菜を炒めて甘酢餡で味付けしたたものという形式は似通っている。が、豚肉の下味は地域によってまるで違う。甘酢の甘さ、酸っぱさも違う。野菜で共通しているのは玉ねぎくらいだろうか。赤の野菜としてはにんじんだと思うが、パプリカや赤ピーマンあたりも多い。それくらいの変化は可愛いもので、これがトマトになったりすると別料理かと言いたくなる。緑の変化で言えばピーマンがきゅうりになったものには驚いたし、最近ではスナップエンドウのパターンも見つけた。黄色の野菜、筍は変異が一番大きいかもしれない。最近の進化型中華料理店では「黄色」が省略されることも多いし、たけのこが黄色パプリカに変わるのはほぼ定石らしい。よく話題に出てくるパイナップルも西日本ではあちこちで見かけた。びっくりしたのはパイナップルではなくマンゴーに代わっている店に出会った時だ。
だから、自分にとっての酢豚の原型はこの店のものだと言える。豚肉の下味は生姜と醤油で片栗粉の衣で揚げたもの、赤はにんじん緑はピーマン、黄色は筍、まさに酢豚のアーキタイプだ。そして玉ねぎはたっぷり多めの方が良い。これこそが酢豚のスタンダードと確信している。ただ、今ではこのスタイルの酢豚を提供する店は実に少ない。それどころか町中華でありながら酢豚がない店が主流になっている。それが実に悲しい。

昔、よく通っていた頃と比べると値段は三倍くらいになっているが、それでもまだまだリーズナブルで「普通に美味しい」町中華であり続けている。感謝だなあ。場所はちょっと分かりずらいが、テレビ塔の近くにあるビルの地下だ。穴場なので一度行ってみると良いと思うよ。