街を歩く

居酒屋に物申したく候

おそらく繁忙期以外ではコスパの良い店なのだと思う

北の街のオフィス街にある居酒屋で地元の友人と会うことにした。いつもであれば空いている店を適当に探してはいるのだが、師走では流石にむずかしかろうとネットで探した店を予約した。これが間違いだった。駅からの距離、地下歩道からの距離で決めたのだが、やはりネットの内容だけで店の良し悪しを見抜くのは難しい。
ホテルの一階にあるので、朝食会場として使われているのだろう。店内の作りに問題はない。夜は居酒屋という二毛作も今では当たり前であり文句のつけようはない。
では、何に文句があるのかというと……………まずネットで席だけ予約をした。普通であれば「予約料」などは取られないと思う。最近は不埒な客が多いのでキャンセル料を設定する店は増えたが、それも仕方のないことだ。この店はそのどちらも問題ない。

問題だったのは、年末年始特別料金を取るということだ。つまり繁忙時の席料を上乗せするという「昭和のバブル期」にはよく見かけた横暴なシステムを導入していることだ。平成時代は席だけ予約は受け付けず、コース予約しか受け付けないというのが繁忙期のスタイルに変わった。これはある程度定着していたと思う。少なくともこの仕組みでは、払う金と料理の対比で、高いとか安いとかぼったくりだとか、あれこれ評価してきた。ぼったくりの店は2度と行かないという、極めて辛辣な評価を受けるもので、そういう店は何年かすると潰れていた。
しかし、この昭和的な特別料金には対価を払うべきものが何も提供されない。座れる権利が付加されるだけだ。だから、昭和以降は廃れてしまった仕組みなのだろう。
そして、その席料追加徴収の告知は、入り口に貼られたA4用紙程度の紙に書かれたとても読みにくい告知文だけだ(暗くてよく見えない)。
席に座って注文をしようとすると、そこでいきなりこう切り出される。「本日は年末特別料金を頂戴するが、それでよいか?」とくるのだ。払うのが嫌ならそのまま出て行くしかない。
ネットの予約の時にはそんなことは書いてなかったように思うのだが、どこかページの隅っこに小さく「特別料金」払ってもらうからねー、とか書いてあったのかもしれない。
結局、席料を払うのが嫌になり外に出ても忘年会シーズン真っ最中だし、飛び込みで入れる店があるとも思えないから、渋々と追加席料を払うことにした。

世の中には外食の教科書みたいなものがあるわけではないから、必ずこういう失敗を犯す経営者は現れる。誰かが「外食時事業あるある」「やってはいけない13の事例」みたいな物をまとめて教えてあげれば良いのだが、それを教えられるのは失敗して破産した元経営者だけだから、存在するはずのない幻の教科書だ。
まあ、この店が何年続くのか見ているしかないが、おそらく同じ間違いをしている店が今年は何軒もあるのだろう。接客の良さだとか、料理のうまさだとかで解消できない、経営者としての勘違いで閉店して行く店が多いことを知る人は少ない。
この昭和の廃れたシステムについて、今の外食企業経理者の大半は知るはずもない。そもそも、その頃はまだ小学生だったり、生まれていなかった世代が現在の経営者になっているからだ。

出てきた料理はコスパが良いものだった。格別の目新しさはないが定番をしっかり押さえるという居酒屋の王道ではある。ただ、なぜ札幌で馬肉推しの店を作るのかはよく理解できない。おまけにホテルの宿泊客向けらしいメニュー、つまりThe 北海道 的な料理も押しまくっている。熊本と北海道が混交する不思議空間だった。

最近はこの街の居酒屋のどこでも置くようになった「ラーメンサラダ」もあった。ただ、このラーメンサラダについては大多数の居酒屋が解釈を間違っていると思う。野菜サラダの上に茹でたラーメンを乗せたものがラーメンサラダではないだろう。そもそも発祥の地であるグランドホテルに行って、元祖を試してみてから自己流アレンジをして欲しいものだ。
個人的に思うことだが、冷やし中華に野菜を足したものと大差がないラーメンサラダは、大体においてまずい。そういう店は麺の茹で加減もいい加減だし。一口食べて、あー失敗したと思うことも多い。この店のラーメンサラダはそこまで低レベルなこともなく、値段相応で納得できる品質のものだとは思う。ただ、最初に聞いた特別料金上乗せのせいで料理の評価にフィルターがかかってしまう。

せっかく料理長が腕を振るっても、料理が力を発揮できないこともある。居酒屋に限らず飲食店は「総合的な体験値」で満足度が決まるものだ。なぜ口コミが集客に威力を発揮するかを、経営者は再確認するべきだろう。口コミは決して表に現れてはこない事象だったが、現代の口コミはSNSという形で表沙汰になる。SNSで風評被害を受けたと反論する者も多いが、現代の口コミを封じる術はない。おまけにミシュランの星が取れた取れないで大騒ぎもする矛盾ぶりだ。それが嫌なら会員制の店にでもして、口コミを封じ込めるしかない。

美味しい料理だけでは商売にならない「エンタテイメント・総合体験空間」が現代の飲食業のあるべき姿だと思うのだがなあ。長文になってしまった。

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