
新宿三丁目に足繁く通っていた時期がある。東京最大の歓楽街である新宿歌舞伎町は騒々しすぎてあまり好みではないので、靖国通りを渡ることなくアルタ裏や新宿3丁目の飲み屋を好んでいた。中でもよく通ったのが老舗の鮨屋で、いつの間にか本店は立て直しになっていたが、本店工事中は支店に通っていた。
近くにある末廣亭で落語を聞いた後にぬる燗で一杯………みたいな気分の時に使うのが多かった。お値段もお手軽で飲み屋遣いのできる鮨屋だったが、最近はいささか調子が違う。どうもインバウンド対応に軸足を移したようで、すっかり足が遠のいてしまっていた。この日も入り口手前まで行ったのだが、なんだか入る気にならず、昼飯を握り鮨にしようと決めていたので他の店を探すことにした。

明治通りを新宿駅側に渡り伊勢丹の裏手にあるビルにもう一つのよく通った鮨屋がある。こちらは主に昼飯に使っていた。ランチの時間を少しずらすとのんびりと鮨をつまみにビールを飲むというような使い方だった。いつも一人で来る店で、友人と連れ立って来た記憶はない。
チェーン店の鮨屋の良いところは、誰とも話をせずにのんびりと鮨をつまめることだ。回転寿司は一人で楽しめるが、のんびり時間が過ごせる気はしない。食べたらさっさと出ていくのが流儀だろう。個人店では大将お任せのコースでも頼めば別だが、カウンターでぽつりぽつりと鮨を注文するのは、なんと話に気が引ける。
デパートにある鮨屋も比較的のんびり過ごせそうな気がするが、実はこの手の店は店内の会話がそれなりに騒々しい。隣の席から響いてくる甲高い声の会話には食欲が失せる。

ランチの鮨屋はセットメニューを頼むことが多い。お好みで注文すると、実は出てくるのが遅くなることが多いせいだ。二、三品注文すると、出てくるのがバラバラになることもある。現代資本主義の本分である合理性は伝統食の鮨屋ですら追求される時代だ。ピーク時間帯の回転率勝負であるランチタイムは、職人が分業制でランチメニューの大量生産にはげむ。
カスタマイズ注文する客など客としては論外、嫌なら出て行けくらいの嫌われぶりだろう。(勝手な想像です)
例外として許容される面倒な注文を考えてみた。ウニと鮑と大トロを10連続くらいで注文する客だろうか。某ハリウッド俳優、未来から来たロボット役で人気だった方は、新宿某所の鮨屋で鮑とウニを40貫づつ注文してそれを食べたらさっさと帰ったそうだ。
その話を聞いてから一度この真似をしたいと思い、食べ放題鮨屋でウニを10貫注文したことがある。元気に食べられたのは6貫目までで、そのあとは胃袋に押し込むのが苦行だった。一般ピーポーが著名人の真似をしてはいけないという教訓になった。
この日はセットメニューの鮨をゆっくりつまみ、少しぬるくなったお茶を飲み干して退散した。この歳になって鮨とアルコールは必然のカップルではなくなったのだと初めて気がついた。締めのお茶がうまいと感じるようになったとはなあ。今度は夕方にでも行って注文しながら好きな鮨を注文してみようか。
ちなみに座った両サイドは日本語を解さない国の方達だった。グローバルフードという単語が頭に思い浮かんだ。蛇足だが、松竹梅について英語で説明しているのを聞いて、なんとも間抜けな感じがした。レストラン向けに英語のメニュー説明マニュアル作ったら売れそうだな。
The best recommendation, The better choice, Good meal for you くらいな感じかなあ。