
宇和島の鯛めしというものを寡聞にして五十歳を過ぎるまで知らなかった。田町にできた宇和島の有名料理店の支店で初めて食べて、とても感動した。コメの旨さが染み渡る飯だなと思った。その後、再度食べる機会もなくずっと忘れていたのだが、昨年松山に行った時に鯛めし屋の支店があり、その前を通りかかり突如として「鯛めしの味」を思い出した。その翌日、ランチで鯛めしを食べようと思ったのだがなんと休業日で諦めた。
しかし、鯛めしに対する熱望の思い?は捨てがたく、なんとか宇和島の本店でリベンジを果たした。人生の宿題をやっつけた気分だった。
鯛めしは、白飯の上に鯛の切り身とタレに生卵を溶いたものをかけて食べる、いわば変形豪華版卵かけご飯だ。鯛TKGと略してみるのもありか(笑)

本店は駅前通りにあったのだが、100mほど引っ込んだ場所に移転していた。予約もせずに開店と同時に駆けつけてみたのだが、店内の席はほぼ半分が埋まっている。人気店なのだ。一人客も多く、カウンター席に案内された。
シックな店内は居酒屋というより高級和食店という雰囲気で、なかなか趣がある。地方の名店とはこういうものかと感心した。

手書きのメニューをのぞいていると、何やら見かけないものを発見した。本日の主役鯛めしの前に、軽く試してみようと思い注文したのが「ぜい塩茹で」だ。名前を見ても全く想像ができない。チャレンジするしかないとは思うが出てくるまではドキドキしていた。

見た目は貝のようなものだが、おそらく亀の手の親戚筋ではないか。亀の手は青森で食べたことがあるが、カニの一族のような味がした。ただ、この「ぜい」は、なんとも微妙な味しかしない。表現するだけの語彙がないのが悲しいくらいだが、薄味の甲殻類系の味だったような……………
片っ端から食べてみたが、やはり頼りない味しか感じない。なんとも難度の高い食べ物だった。何度か食べるうちに味の違いがわかるようになる、そんな食べ物のような気がした。
他にもあれこれ注文したのだが、どれもうまい。カウンターの奥で働く職人のキビキビした姿は、もう一つのご馳走だった。良い店だ。