街を歩く

京都風なラーメン

京都から福知山に向かう時、特急を使わないと途中の駅が終点で、そこから乗り継ぐことになる。京都駅を出発してから30分ほどで着いた街は、駅前はだいぶ寂れている。京都市内までは通勤圏だと思うが、典型的な地方都市の感じがする。駅から少し離れたところにイオンがあるのも地方都市のお約束だ。そして、街道筋、ロードサイドに大多数の商業施設は移転済みで、駅前を利用するのは交通難民である高校生と高齢者だけ………のはずなのだが、なぜか駅の反対側に大きなサッカースタジアムがある。確かに、この街も京都府なのだ。Jリーグのチームがホームにしているらしい。

そもそも現在の京都府は、元々の山城国に加えて丹波国の一部、丹後国が行政区分に入っている。つまり京都市から日本海に向かった地域も京都府なのだ。そして、山間に点在する地方都市は昔の領主、豪族が支配した拠点だった。
この街の主人はなんと明智光秀で、駅には「明智の殿様推し」の案内板があった。絶対支配者への反乱という負のイメージは、どうやらこの街では存在しないらしい。城下町を切り拓いた尊敬すべき領主として記されていた。
その光秀の街でたまたま見つけたラーメン屋が妙に気になった。黄色に黒字といいう交通標識のような目立つ看板のせいもあるが、それ以上に目を引いたのが「味は一番だ」という宣言だった。
これは微妙に意味深だ。うちのラーメンの味は一番だ、と言いたいのだと思う。ただ、ラーメン店にとって「味」は一番大切だと思っております、という決意とも取れる。おまけに京都伏見が発祥の地らしい。ただし京都市の一部である伏見は京都でも南部、京都市内中心部からはかなり離れた場所で、すぐ隣は奈良県境になる。いわば山深い京都が生まれ故郷なのだ。ワイルドではないか。一度店の前を通り過ぎたが、気になり戻ってきてしまった。

結局、京都のラーメンを食べることになった。ちなみに京都のラーメンの特徴は、ギトギト豚骨系スープだと思う。豚骨ラーメンの本場、九州のそれよりももっと濃厚なスープで、かつ、ドロドロ系であるという認識だ。出てきたラーメンは、まさにその通りのものだった。ただ、見た目と違い塩味は薄めなので、意外とサラサラと麺を食べてしまう。だが、スープは濃厚なので口の周りはコラーゲンでツヤツヤになる。
其のドロドロラーメンを食べながら思い出したことがある。昭和の中期に一時期はやっていた「京風ラーメン」のことだ。あれは全くの創作料理だったのだろう。京都という言葉に触発されたような和風だし系さっぱりラーメンだった。トッピングも、ビジュアル重視のあっさりしたものだったような記憶がある。しかし、その京風ラーメンというものに、京都で出会ったことがない。京都のラーメン代表といえる有名店はどこもコッテリドロドロ系と決まっている。

まして、このラーメンは京都といっても南部の伏見が発祥地のせいか、京風というより京都辺境風とでも言いたくなる凄みがある。ふらりと入った店で、なんだかすごい強者と出会ってしまった。

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