街を歩く

オリーおばさんの肉まん

神楽坂毘沙門天は神楽坂で遊ぶ時のランドマークだ。神楽坂に一番通っていた頃は、月に1-2度という頻度だったように記憶している。だからと言って街の隅々まで歩き回ったというほどでもない。決まった店をローテーションして回っていたものだ。
信心深いわけでもないので、毘沙門様の前を通っても軽く頭を垂れる程度、キッチリとお参りをしたことはない。今回も入り口の前で頭を下げておしまいという不信心ぶりだ。いばれたものではない。

その毘沙門様の向かいに老舗の饅頭屋があった。いつの間にか引っ越して小綺麗な店になっているなと思っていたが、実はお家騒動があったらしい。ネットで探すと、二軒の同名饅頭屋が出てきてどうなっているんだと調べてみたらわかった。
こちらは単純に昔食べた饅頭をまた食べてみたいと思っただけなのだ。神楽坂以外に支店が出ていたら便利なところで饅頭を買おうという単純な調べ物だったのだが。
結論から言うと、昔々店があった場所のすぐ隣にある方が、新しくできたものらしい。屋号も五十番ではなく五〇番となっている。この小道を挟んだ右側に昔の店はあったような気がする。
2階の中華食堂はいつも満席で、とうとう一度も入ることができなかった。残念。満席で諦めた後、仕方なく一階の売店で饅頭を買っていた。だから、ここの肉まんは結構な頻度で買ったはずだ。

元々の店のあった場所から、メトロ神楽坂駅方面に坂を登ったところに移転して、現在も営業している方が「元祖」らしい。ここで饅頭を買うことにして、神楽坂を登り始めたらすっかりくたびれてしまった。
神楽坂の坂道がしんどいと思うほどには歳をとったのだと、ちょっと物悲しくなる。この店では肉まん以外に中華惣菜も扱っているが、やはりお目当てはあの大型肉まんだから、注文にも迷うことがない。

この肉まんは、故栗本薫氏がその作品の中でたびたび登場させた、田舎町の旅籠に併設された食堂の名物として記憶に刻まれている。本の中に書かれた食べ物を食べてみたいと思ったのは初めてだった。その後しばらくして後書きに「ここのまんじゅうがモデル」と言うような記載があり、神楽坂まで饅頭を買いに行った。
栗本氏の長編サーガはほとんど読んだ。自分が死ぬのとこの長編作品が完結するのとどちらが先か心配していた。100巻で終了と言われていたので(著者本人が)90巻が出たあたりでなんとか完結編が読めそうだと安心した記憶があるが、それはすぐに著者に裏切られた。後書きで、100巻では終わりそうにない宣言をしたからだ。あの時は本当に呆然とした。
その後、完結を待たず著者が亡くなってしまい、こちらはまだ生きてるのだが完結編が読めないと、また嘆くことになる。その後、書き手を変えながら話の続編が書かれることになったが、こちらがそれに付き合う気力を無くしていた。確か、126巻までは持っていたはずだ。(もうすぐ150巻になるらしい)
その作中に出てきたオリーおばさんの肉まんがふと記憶に蘇り、テクテクと神楽坂を登ることになった。あとで考えれば、メトロ神楽坂で降りて坂道を飯田橋方向に降ればよかったのだ。

ようやく手に入れた饅頭を見て思い出した。昔は経木にまんじゅうが包まれていたような気がする。が、今では一個ずつの個包装になっていた。定番肉まんは相変わらずの大ぶりで、手にとるとずしりと重い。朝飯代わりに一個食べてみたら、朝飯としては量が多すぎるほどのボリュームだった。こんなに大きかったかと、自分の記憶の怪しさを疑ってしまう。

肉がたっぷりで味付けは濃い。皮も厚めで腹ごたえがある。確かにこれであれば飯かわりになるだろうと改めて思った。忙しい時には、この饅頭を飯がわりにしていたと言う栗本氏が存命であれば今年は古希を超えるはずだが、饅頭を片手にグイン200巻達成などと言っていたのかもしれないなあ。読みたかったな、グイン完結編。

コメントを残す