
北の街で知らない人はいないだろうというくらい有名なパン屋さん「どんぐり」がおむすび屋を開けたのはコロナがはやる前だったような気もする。ちょっと大きめのおむすびをずらりと並べて売っているのだが、コンビニおにぎりと比べると値段はお高めだ。それでも人気なのは、コンビニおにぎりが冷たくて、握りが甘くて食べるとぼろぼろこぼれる、何というか「おにぎりもどき」な店に不満を持つ客が多いからだろう。
TVコマーシャルで威張っている割に、なるほどと納得できるほどの品質が伴わないのだから、やはりあれこ過剰広告と言いたいものがある。そのおにぎりもどきと比べると、こちらの手で握ったおむすびは雲泥の差があると言って間違いない。
そういう悪口を言うくせに、コンビニおにぎりにはよくお世話になっているので、そのうちバチが当たるかもしれない。
ただ、この店はパン屋さんがやっているおむすび屋だけあって、種類も具材もとてもユニークなものが多い。おまけにサイドアイテムが凄すぎる。「いぶりチーアジフライ」など、街の総菜屋では見かけることもないユニークさだ。
しかし、何と言ってもPOPに書かれているおすすめの一言に衝撃を受ける。その造語センスに打ちのめされてしまった。凄まじい破壊力があるではないか。
「春はあげもの」のフレーズはまさに爆弾だ。。清少納言様が聞いたら卒倒しそうな乱暴さだが、何となく気持ちはわかる。いや、激しく同意する。言葉のセンスは、ある意味で暴力的とも言える支配力につながる。
そのおにぎりの横でひっそりと売れているのが「ちくわパンのツナマヨ」で売り上げ三位とは何ともすごい。ツナマヨが売れるのだな。まさにありそうでなかった惣菜というかパン用スプレッドだが、それをちくわパンの本店ではなく隣のおむすび屋で売るというあたりが、何とも小癪な作戦ではないか。これでは、隣のパン屋で食パンを買い、そのままおむすび屋に直行してちくわパン用ツナマヨを買うという強制ルートが出来上がってしまう。すごいなあ、どんぐりマーケティング。

隣のパン本店に行ってみたら、これまたすごい「コピーワーク」を発見してしまった。「アボタルの礒野エビヲ」ですと……………思わずその場で固まってしまった。おまけに、何と310円という惣菜パンでは上限であるはずの300円越え。すごいというしかない。おそらく山盛りに陳列していたであろうアボタルパンがほとんど完売状態になっている。その人気は味の良さなのか、言葉の威力なのか。すごいというしかない。
よく見ると、スタッフダントツ人気と書いてある。あれ、これおかしくないか?客に人気があるのでハンク、作り手売り手の人気商品って……………そう言う時代らしい。

アボタルの衝撃力にやられよろよろ隣のコーナーに行ってみれば、これまた破壊力抜群の秀逸コピーにお出迎えされた。「おかあさんシュークリーム」ですか。この店は本当にパン屋なのだろうかと思うくらいの甘いもの商品群が並んでいる。おまけに、POPに「スイーツは別腹」と書いてある。
そうか、パン屋のスイーツはケーキ屋のスイーツとは違うのだ。例えば、メロンパンやあんぱんを食べた後、別腹でシュークリームを食べなさいと推奨しているわけだ。そして、かなりの割合で「スイーツは別腹」を信じる信徒が存在するようだ。「どんぐり」は新興宗教化しているに違いない。甘いは正義!と……………
初めてどんぐりの本店に行った時も、似たようなことを感じた。POPの作り方がとてもうまいのだ。だが、その技はどんどん磨きがかかっている。販売の技術の教科書で取り上げるべきレベルの題材だろう。
ちなみに、北海道の繁盛パン屋は全道あちこちにあるが、共通して言えるのは、どの店もPOPが上手い、コピーが素敵ということだ。現代のパン職人はコピー開発力も必要とされる時代なのだなあ。