
高知の愛すべき居酒屋で、軽く夕食にしようと出かけたのは日曜の夕方、それも早い時間だった。ソロ飲みする時はピーク時間をうまく外すのがコツだ。早めにいって混み合う頃には帰れのがベストだろう。
混み合ってくると食べ物の注文が多くなり、出てくる時間が遅くなる。ソロ飲みする時は注文数は少ないが、お腹の都合に合わせて一つずつ注文することになるので、時間差が出てしまう。その対応が、ピーク前に行くということだ。ピークが終わった後に行っても良いのだが、その時はお目当てのメニューが売り切れてしまったりする。
今回は、タコ酢から始めることにした。イカ刺しにタコ酢は全国どこでも同じ味だといっても間違いない。タコの大部分ははるかアフリカからの輸入ものだ。国産のタコなど瀬戸内の港町や北海道の沿岸部くらいでしか楽しめない。タコ好きだかブランドだこをありがたがるほどのこだわりもない。ちょっと厚めに切ってあり、酢がきつめであれば「我が愛しいタコ酢」と言える。

そのあとはいつもの定番、串揚げ盛り合わせにした。串焼き盛り合わせの方も捨てがたいが、その日の気分であ「揚げ」と「焼き」のどちらかを選ぶことにしている。ソース2度づけ禁止の串揚げはすっかり全国に広がって、居酒屋定番メニューとなったが、串揚げのネタは店によって微妙に変わるのが楽しい。
定番はエビと豚肉だと思うが、こんにゃくとかうずらの卵とか、時に胃はびっくりさせられるものが混じっている。ソースの味を堪能するなら、やはり焼きそばより串揚げだろうなあと思うのだが、ソースの味も店によって微妙に変わっているから、ソースこだわりの人はもう少し厳しい判定をするのかもしれない。

そして、そろそろ締めにしようかと思っていた時、何やら座っているカウンター席の周辺が忙しくなった。自分の右側の5席が空席のままになり、カウンターで予約客が来るのかと思っていた。
ところが、酒も飲まないまま通路をうろうろする人間が現れ、店主との会話が聞こえてくると、どうやらテレビ版ぶみの撮影が入るらしい。そのスタンバイのタイミングでもこもこと店に入ってきてしまったようだ。
やれやれ面倒なことになったと思っていた。さっさと飲んで帰ろう。撮影のガヤにされるのは真平ごめんだ。おまけにVTRが回り始めたら、勘定して帰るのも難しくなる。なんと、本日の主演者が座る席はレジの真ん前なのだ。
などと考えていたとこで店主が「お兄さん、気にせずゆっくりしてってね」と声をかけてきた。ご好意はありがたいが、窮屈な酒が嫌でソロ飲みしているので、一気に注文した品を平らげ退店することにした。
酢豚の一気喰いをしたのは生まれて初めてで、食べている最中に汗が出てきた。
そんな慌ただしい中、主演者は高知生まれの居酒屋愛好家だという話が聞こえてきた。うーん、高知生まれなんでしょう?もうこの店何度も来てるでしょう?なんで、今日なの?とうらにがましく考えていたのだが、この日は土佐のおきゃく開催日だった。
ああ、それに合わせたのかと納得したことはしたのだが。
俺の平安な居酒屋ライフを返せ、と言いたくなった。滞在時間、約40分。まあ、こんな日もあるか。店を出たらまだ外は明るかった。

ふと気になり営業時間を確かめてみた。なんだか営業時間が変わっているような気がする。記憶が歪んでいるのかもしれないが、以前はもっと長かったような気がする。ほとんど24時間営業みたいな感じではなかったか?おまけに定休日もある。
うーん、おそらく高知の酔いどれジジイの人口が減少しつつあるから、時短営業になったのだろうか。次回来る時は、人が飯を食べたり酒を飲んだりしない時間、午後3時くらいにすれば安全圏ではないかなと、心のどこかにメモしておくことにした。

ホテルに帰る途中で見つけた、別の居酒屋の店頭看板に目が止まった。地元の酒飲みには当たり前のメニューかもしれないが、これはかなりレベルの高い高知ローカルグルメのラインナップだった。
初級観光客にはちょっとレベルが高すぎるかもしれない。ドがつく定番のカツオがない。カツオの次といえば、うなぎ、ウツボ、シイラあたりかと思うがそれもない。マイゴという貝の選択も渋すぎる。おまけにトップはなすのたたきという、B級どころかS級グルメではないか。ちなみにSはSecret シークレットのSだ。

次回はこの店にチャレンジしてみなければなるまい。と、固く決意しました。ほとんど八つ当たりですけど。