街を歩く

すすきので一番安全な居酒屋

すすきので一番目立つファストフードといえばこの二軒だ。観光客が全国チェーン店に入るものだろうかと不思議がっていたのだが、早朝にはなかなか混雑している。なるほどビジネスホテルに泊まった客は、全国チェーンのファストフードを使うのだなと納得した。
ただ、見ている間にも数組の外国人観光客が入っていく。時代は変わったものだなと、また別の感慨を持ってしまった。牛丼はすでにグローバル商品らしい。

そのファストフード店のすぐ隣に、日本最大の合法的武装組織の拠点がある。町のあちこちで喧嘩が起きる大繁華街ススキノでも、流石にこの組織拠点付近は平和なもので、あまり揉め事を見ない。酔っ払いにも最低の分別くらいは残っているらしい。
ただ、若い頃に聞いた都市伝説で、この拠点の最上階の壁は誰にも見せられないが、一面赤で染まっているらしい。だから、もし間違いを起こし拠点に連れ込まれた場合は、何としても上層階に連れて行かれないように平心平頭謝るのだ、などとまことしやかに先輩から教えられたものだ。
あの当時の拠点は建て直されてしまった。うっすらとした記憶と比べてみると新拠点施設は少し背が伸びているようだ。なので、怪しい赤い壁の存在も抹消されたことだろうとは思うが、新・赤い壁がまた最上階に……………などと、ついつい妄想してしまった。

そして、この拠点の脇にある路地の奥まったところに、なぜか全国チェーンの居酒屋がある。拠点まで歩いて10秒の距離だから、ある意味で「ススキノでは一番安全な場所」なのだが、どうにも「拠点従業員」の専属になっているような気がして、この店に入る気にはなれない。
制服を脱いだ勤務明けの拠点従業員の方に囲まれて飲むのは、想像しただけで肩が凝る。話しかけられでもしたら、背筋を伸ばして直立不動で最大限の敬語を使い、質問に「お答え」するしかない。

うひゃーといいたくなる、想像してはいけない光景だ。妄想が暴走してしまったが、やはりススキノで一番安全な飲み屋であっても、一番行きたくない飲み屋であることに違いはないだろうなあ。

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