
昔からある城下町では、鉄道の駅とお城近くの繁華街が離れていることが多い。岡山も新幹線が通る大幹線駅なのだが、お城から駅はかなり離れている。お城と駅を結ぶのが路面電車で、これを使ってお城近くまで行った。百貨店を中心としてアーケードが続く岡山の繁華街だが、残念なことにシャッターが閉まった店もかなりある。中心部の衰退は全国土の街で起こっていることだが、岡山も例外とはいえないようだ。このアーケード街が再生することは、おそらくない。そのうちにぽつりぽつりと店が消え駐車場に変わるようになる。そうなるとアーケードは一気に荒廃が始まる。そんな街をあちこちで見てきた。

おそらく、その引き金を引いたのは自動車移動中心の生活が始まったことで、それに商店街の対応が遅れたことだ。そして、決着をつけたのが駅前にできた大規模人工都市であるショッピングモールだ。
このショッピングモール対繁華街の戦いは、都市の新陳代謝と見ることもできる。しかし、都市再生というにはほどとおり。ただただ、旧繁華街で起こっているのは、自分たちの街の新陳代謝を起こせずにゆっくりと老衰しているという現実だろう。
その衰えゆく街並みの中で、いやいや、俺たちはまだ負けませんぜというような元気のある看板を見ると、他人様の街でありながらホッとする。例えばこの「漆器雑貨」と書かれた看板の力強さがたまらない。
今の時代に漆器の専門店を続けていることもすごいが、城下町の時代にはさぞかし名門の老舗だったのではないか。漆器とは、今でいうところの高級ブランドであり、嫁入り道具で持っていったり、代々伝わる冠婚葬祭の必須道具だったはずだ。
見た目は古そうな看板だが、定期的にメンテナンスしているように見える。電話番号五十四番とはこれまたすごい。岡山の中で最初期に電話を引いた大金持ち商人だったということがよくわかる。看板に感動するとは稀な経験だった。書体は旧字で右書きであるから、少なくとも戦前、おそらく明治末ごろからの看板だろうか。

こちらは昭和中期の看板だと思うが、今でも「ラジオ」店というのがすばらしい。昭和の始まりごろから続く店だろうか。当時、ラジオは近代家電の代表で、最新鋭の情報機器だった。近代文明の最先端を感じさせるものだったはずだ。
そしてラジオはテレビに置き換わり、パソコン、スマホと時代の主力情報機器は進化を続けた。今ではラジオ専用機を持っているものなど数少ない「趣味」専用の機械だ。(ちなみに、自分はラジオ専用機を持っておりますが、なにか?)
すっかり減少している喫煙者が店の前に集まっていたので、何か特殊なことでもあるのかと興味を惹かれたが、単純に大型の灰皿があるからそこでタバコを吸っているだけだったようだ。ラジオ店の集客がタバコになっているという不思議さには、あれこれ考えてしまった。

店の中では何を売っているのか覗いてみたら、なんとも雑多なもの、おそらく家電製品の一種を含めたあれこれが並んでいる。ドンキの家電売り場のようなカオス状態だった。じっくり時間をかけて眺めてみたら面白そうだったが………

そのラジオ店の先で、これまた不思議な店を発見した。何を売っているのかよくわからない。店頭で飲食業をしているような感じもするが、入り口付近には様々な人形が並んでいる。どうやら骨董品屋というかアンティックショップというか、いろいろな古いものを雑然と並べて売っているようだ。
営業中と書いてあるが、この看板もひょっとして売り物なのではないかとおもってしまう。ちなみに店頭でソフトクリームを注文するにはどうすれば良いのか。従業員は誰もいないので、店内に注文しに行くのだろうか。あれこれ興味が尽きない。

一番すごいのは、この薬品メーカーが作った遊具で、たしか十円入れるとごとごと?動くものだったような記憶がある。ただ、十円玉挿入口は塞がれていた。これも売っているのだろうか。値札は見つけられなかったが。まさしく不思議空間だ。



アーケード探索に疲れて喫茶店でもないかと探していたら、すてきな食堂を発見した。もう少し腹が空いていればノータイムで入ったのだが………
少しくたびれた感じのする岡山繁華街は、実は「私、脱ぐとすごいんです」的なグラマーな魅力に溢れているワンダーランドらしい。もう一度、ゆっくり時間をかけて遊びに来たいものだ。
多分、土曜の午後、人出が多い時間が楽しそうだ。ちなみに岡山は財政破綻都市の手前くらい借金が多いらしいので、アーケード復興の予算はないだろうから、ここはクラウドファンディングを使い、面白い街づくりをするというのはどうかなあ。対イオンとして大正昭和をテーマに全面レトロなテーマパークみたいにするとか。商店街の観光地かは面白いと思うのだけれど。