
飛行機に乗るときは通路側の席と決めたのが20代のことだった。単純にトイレに行く時に出やすいというだけの理由だった。当時は畿内テロ事件も頻発していたから、通路側の席は危険度が高いので隠れやすい窓側の席を選ぶようにと業務指示が出ていたが、ほとんど守っていないかった。
あえて窓側の席を取ったのは、モスクワ経由でイタリアに行く便に乗った時で、そのときはシベリアの大地を見てみたいと思ったからだ。実際にシベリア上空に到達して延々と広がる緑の平野だったかジャングルだったかに感動していたのはものの5分程度で、すぐに飽きてしまった。
だから、今回はたまたま翼の前の窓側席に座り外を眺めてみたら、意外と楽しいものだった。新鮮というか眼下に広がる都会のごちゃごちゃが見飽きなかった。

目的地に近づくと、ごちゃごちゃした民家や自動車がさっぱり見当たらない。なんだかじベリアみたいなだ、というのが千歳空港上空での感想だった。確かに、太平洋から千歳へ向かう地域は原生林というか道路すらも少ない場所だからなあ。

その原生林からJR移動40分で、このビルの街にたどりつく。不思議な感覚だが、それももはや当たり前というか。現代人の移動感覚や距離感はすっかり人本来の持つものとは変わっているのだろう。

札幌のシンボルと言える大通公園のテレビ塔も、たまに雲ひとつない空にくっきりと見える時がある。普段は雲の多い札幌の空だが、夏であれば月に何度かは快晴になる。こういう日には、展望台に上がって西日に赤く染まっている街並みを見るのがおすすめなのだと思うのだが、夕日の街を見て感動するのは地元民なのかもしれない。今や、すっかり夜景の名所になった札幌だが、夕焼けも綺麗なのだとこっそりつぶやいておこう。