小売外食業の理論

ワークマンとユニクロ SPAの考察 #1 臨界点

山口県の地方都市から出発した衣料品店のユニクロが、ある程度知名度を持ったあとも出店速度は地味なものだった。郊外に倉庫型の店舗を立てるというのは地方マーケットでの店舗展開としては、定石というか唯一の選択肢だっただろう。
しかし、首都圏のような人口密度の高く交通網が発達した場所では、ロードサイドの倉庫型店舗は当たり外れが大きすぎた。だから、今でも見た目ではっきりわかる元・ユニクロという店舗や建物があちこちにある。
ユニクロ閉店後の新・住人は、郊外展開で浸透力のあるチェーンが多い。元ユニクロの店舗というのはそれなりに大きな建物なので、後釜に入るには強い販売力が必要だ。が、元ユニクロ店舗の共通項目として駐車場と建坪のバランスが悪いことがある。だから外食には向いていない。後釜企業には中古衣料やリサイクル店など陳列スペースが必要な小売業が多いようだ。

高機能低価格路線のワークマンTシャツ

そのユニクロが爆発的な成長を開始したのには二つの起爆剤があった。一つ目は単品大量製造で培ったSPA ーspecialty store retailer of private label apparelーの基礎技術にある。衣料品をデザインだけではなく原材料の調達にまで手を広げて生まれた「高機能」かつ「低価格」なベーシック衣料がユニクロの強みだった。
契約製造工場も含め自社開発することで中間マージンと過大な廃棄ロスを避けるのがSPAの儲けの原理だが、それを実現し規模の経済に結び付けたのがユニクロだった。GMSで食料品より衣料品が儲かることを証明していたヨーカドーやダイエー、イオンといったグループも似たようなことをおこなっていたのだろうが、ユニクロの規模には遠く及ばない。
第二の拡大起爆剤は新規出店立地を郊外からターミナル駅の商業ビルに変更したことだ。そこそこに知名度が上がった以降は、家賃が高くても圧倒的集客力のある商業施設内の方が衣料品を売るには適していた。郊外型店舗の成功率の低さもあるが、山口の地方都市出身ではなかなか理解できなかった首都圏などの大都市商圏の威力、購買力を遅まきながら悟ったあたりから急速に全国に出店拡大して良いった。
それに伴い、デザインに重点を置いたファッション性の高い商品を開発したり、高機能繊維を使った機能性インナーなどの新カテゴリーも開発した。
ただ、やはりユニクロの戦闘力最大の特徴といえば、「誰も真似のできない高機能と低価格」の調和だった。当然中間マージンも少ないので、低価格でも粗利は大きい。1500円で売ったフリースの原価を聞いたら、腰が抜けそうになる程驚いた。ユニクロの利益率の高さに納得するしかない。
出店数がある規模になり(だいたい全国で300店程度か)、ブランド認知が定着したあたりで、おそらく生産規模も理想的な段階に辿り着く。一つ一つの工場が稼働率の限界に近づ気、輸送のロットも効率化される。成長爆発の臨界点が、原料、生産、輸送、販売拠点、消費者需要の順に達成されていった。
残る経営資源は「人」だけなのだが、ここはどうやら失敗したらしい。天才的なカリスマ経営者の下では、後継者が優秀な経営者であったとしても、二流扱い、ゴミ扱いされてしまうようだ。この辺りは、世界企業であるアップルやマイクロソフトの創業者とその後継のようなバトンタッチがうまく入っていない。それでも、日本を代表する高収益企業が続いていることに間違いはなく、まだ当面は高収益企業として成長を続けるだろう。
繰り返すが、ユニクロに代表されるSPAの特質とは「高機能」と「低価格」の実現にある。ところが、この高機能を維持するのが難しい。結局、ユニクロも高機能製品の開発が止まり、ブランドに寄りかかった値上げがほぼ唯一の成長戦略になってしまった。
その先は「国内市場飽和」を海外進出による再成長に求めるという、これはこれでグローバルな戦略を選ぶことになる。米国発SPAが通った道と同じだ。ただ、ユニクロのユニークさは「安さ」ではなく「原料繊維の優位性」を持っていたことで、これが米国SPAとの差別化要因となるはずだった。アベノミクスの円安基調も海外展開には優位だったはずだ。
しかし、その間に「第二のユニクロ」が国内マーケットでじわりと広がっていた。高機能だけど安いというユニクロに対して、安いけど高機能という微妙な変化をしたアプローチを取ったのがワークマン、作業服の専門店だった。

色違いもあるが、色使いについてはもう少しお勉強が必要らしい

ワークマンの出身は北関東、群馬になる。首都圏に近接しながら、限りなく地方都市の集合体である北関東車社会の覇者、ベイシアグループのメンバー企業だ。山口と群馬の距離の差、衣料品専門店と低価格志向流通業というルーツの差、などユニクロとワークマンのビジネスを同列に見るのは難しいかもしれない。しかし、SPAという勝ち組のルールを、どちらの企業も理解しているだけに、後発のワークマンがカジュアル衣料でユニクロを凌駕する可能性があるのではと思うのだ。
少なくともイオンやIYといった同系統の流通業グループでは、ベイシア・ワークマンには敵わないというか対抗できないと認識している。
イオン・IYの問題点については別の機会に論じるが、簡単にいうとイオンはユニクロの低価格コピーでしかなくユニクロの後を追い続けるしかない。IYは絶対性能差がないにも関わらず何故か高価格に振りたがるという特異な企業DNAが抜けないからだ。どちらもベイシア・ワークマングループをマネする「力量」や「知的資産」が足りないと判断している。

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