回転寿司の話を続ける。うまいまずいという感想文ではなく、食文化、外食産業の今後みたいな、ちょっと真面目な「論考」のつもりで整理してみた。すしの写真を撮るとブランド名が映り込む。某回転寿司チェーンとは書けないので、実名表記になる(笑)。写真にぼかしを入れるという手段もあるが、それでは別の意味でフードポルノ(笑)だし・・・。

繁華街での高速回転型商売であった回転寿司が、郊外型ロードサイド展開で急成長したのはバブル崩壊の平成後期だった。要因は色々とあるが、極めて単純にいうと「何でもありのファミレス」から「一芸に秀でた専門店」に客が流出したことだと思う。バブル崩壊の前半では、居酒屋がファミレス化した。郊外型居酒屋の出店が目立ったが、それも飲酒運転撲滅の道交法改正であっという間にとどめを打たれた。ファミレスキラーとして一大勢力化したのが、牛角に代表される低価格焼肉屋と、一皿100円というワンプライス戦略を取った低価格回転寿司だった。
同時期に高級ネタを提供する複層価格帯(100円皿、200円皿、300円皿など皿の枚数と支払い価格の関係が面倒くさい)回転寿司は次第に劣勢になっていった。回転寿司王国とでもいうべき、北海道や北陸以外では、大都市圏を中心に高級回転寿司はほぼ駆逐されたと言える。ちなみに、北海道や北陸では、逆に100円寿司が負け組で、高級回転寿司が市場独占している。類推するにネタの質問代が絡んでいる。うまい魚が安くて豊富という地方特性なのだろう。逆に海なし県では100円逗子が圧勝している。
ワンプライス回転寿司での勝ち残り組は、関西発のくら寿司とスシロー、関東ではかっぱ寿司とはま寿司になる。ただ、かっぱ寿司は上位組から脱落しつつある。100円回転寿司の勝因は、まず第一に皿枚数=支払額というワンプライスの分かり易さだろう。ただ、そこに頼り切るのではなく商品の多様化というマーチャンダイジング、タッチパネルによるバイオーダー(注文したら出来立てが来る)体制構築でロス削減、人員効率化などある意味技術革新の連続で経営効率を改善し続けた結果だ。結果的に、今の回転寿司では寿司はほとんど回転していない。
だから、その経営革新、運営技術改善について来れない(経営的に変化が遅い、あるいは技術革新に対応する投資が出来ない)チェーンから競争脱落してM&A対象になった。すでに回転寿司を新規開店するための設備投資は大きく膨れ上がり、経営体力のない企業では参画できないレベルになっている。そして、大手3社の競争も出店攻勢が一段落しているため、既存店の競り合いという構造に変化した。陣取り合戦から攻城戦に変わったということだ。ゼロサム競争の中に新規参入は余計難しくなっている。

その攻城戦の主たる戦略が、まずは寿司ネタの拡大、魚がのっていない寿司の開発で、典型はコーンの軍艦巻。その後、ハンバーグや焼肉が乗った寿司が定番になっていった。これは回転寿司がファミレス化したため客層が子供、大人、高齢者と複層化していったことへの対応だろう。魚を乗せない寿司は(鮨とは言えないので寿司と書く)、減価率低減に貢献したはずだ。軍艦巻きの上に乗るマヨコーンの原価とマグロの原価を考えれば一目瞭然だ。おまけに、マヨコーンの方が(多分)大量に売れているはずだ。
攻城戦戦略の二番目は、デザートの拡充と麺類の投入で、これはメニューバラエティーの拡大というより高単価商品の導入(例えば200円デザートや380円ラーメンなど)にあったはずだ。買い上げ点数(皿数)を増やす作戦であり、それも寿司の100円皿ではなくラーメン380円という定番皿よりおよそ4倍も高いものを売り出すことだ。
すし屋でラーメンと聞くと、まさに冒険的メニューというしかない。しかし、麺類展開作戦としてまずはかけうどん、かけそばを投入し、それに天ぷらを乗せ、最終的にラーメンを投入するという、それなりに手順を踏んだ作戦だった(と記憶している)。ただ、仁義なき戦い(笑)継続中の回転寿司御三家は、どこかが何かを導入して成功らしいと気がつくと、おおよそ3ヶ月もすると三者とも同じメニューが揃い踏みするという対応の速さだ。それはそれで商品開発力があることを意味する。コピー商品とはいえ、1000店近い規模の店舗網に新商品を即時投入するのは、相当な力技だ。それができる体力がある外食企業は少ない。
なので、今や回転寿司のラーメンはキャンペーン対応を含め定番化しているし、デザートの更なる高価格化も進んでいる。(400円台のパフェは当たり前の時代になった)
そして、攻城戦略の第三弾と言って良いのか疑問はあるが、今や当然の如く、高価格寿司皿投入が行われている。ラーメンで外堀を埋めて、客の価格意識を変えたあと、100円ワンプライスの建前を捨てる。用意周到なのか、流れのままにその場しのぎの対応をした結果なのか、ちょっと微妙ではあるが。
ここ一年はコロナ感染の影響もあり、3社とも高価格商品のキャンペーン投入(限定時期提供)が主流になった。ウニ・アワビ・本鮪など100円皿では提供不可能だったネタが次々投入されている。おそらく1年以内には一皿500円が定着するだろうと思う。もはや回転寿司は千円札一枚で満腹になる低価格需要対応業態ではなく、うまいけど高いというアッパー業態へ変化しつつある。

ただアッパー価格志向のキャンペーンを行いながら、これまでと同じように、ワンプライス回転寿司のDNAというか、100円にこだわる部分も残っているようで、生だこは100円皿だ。一般的に100円で提供されているタコは煮ダコだったはずだが、最近の世界的なタコ不足のためか、普通の煮ダコは150円皿になっていた。真ダコと水ダコのような、似ているが違う原材料の使用は、100円キープのために重要だろう。イカもマイカ資源が急減少しているため、安価な定番ネタから高価な季節ネタに変わる可能性がある。青魚で言えば「秋刀魚」は漁獲量が減りすぎ、最近資源が拡大している「イワシ」にシフトするだろう。鯛やハマチなどの養殖魚はコロナ感染の影響を受け、価格が変動しているようだから、この先の目玉商品化する可能性がある。安定大量買い付けは、いつの夜でも価格破壊の要因になる。

この蟹味噌の軍艦巻きも、涙ながらの工夫だといつも思う。ウニやイクラなどの原価の高い商品を100円皿で売るために編み出された、キュウリをスペーサーに使用するという苦肉の作戦だったはずが、蟹味噌程度でも使われるのは原価調整の最たるものだろう。ただ、蟹味噌は味が濃いので、こんなふうに一巻あたりの量を減らしたほうが味のバランスがよくなるとは思う。個人的にはキュウリはいらないが、それは人それぞれ。

ウニの三貫セットで480円という売り方も、一皿500円突破のための実験だろうと読んでいる。それも同じものを三貫のせるのではなく、ベースのウニ寿司は同一で、トッピングによる変化を打ち出す。そして、トッピングしたウニ寿司の単品販売はしないので、3個の合計価格の計算ができない仕組みにする。実にエレガントなマーケティング戦術だと感心した。いや、業界の常識としては「感嘆」するべき優秀作だろう。
同時期に本鮪だけ8個乗せた大皿が980円で、これも席に着くと従業員が本日のおすすめとセールストーク。商人(あきんど)精神が復活したらしい。
もはや回転寿司は生まれた当初のビジネスモデルとは全く異なっている。そして、現在の外食産業では、回転寿司が技術革新を含め最先端のビジネスモデルに進化している。寿司を安く、早く提供するという事業から遠く離れ、テイクアウトも含めた事業領域拡大に爆走中というところだろう。また、DX、デジタル武装も業界を上げて進めているので(お互いに切磋琢磨というより競合のデジタル競争に引きずられてということか)、もはや斜陽産業化しているファミレス業態との差はますます開くような気がする。
回転寿司から新しい業態に進化するのか、あるいはスピンアウトして似て非なるコンセプトが生まれるのか、なかなか楽しみな業界なのだ。ただ、外食産業のメインストリーム、主流業態に躍り出た回転寿司が新しい外食文化を牽引することは間違いないだろう。
おまけとして個人的な感想だが、ここ数年でシャリ玉(にぎりのコメ部分)が小さくなっている気がする。シャリ玉とネタの重量比は鮨屋の重要ノウハウだろうと思うのだが、全体に小ぶり化して原価削減という気もするし、寿司が小さくなれば10皿ではなく11皿食べるという買い上げ点数拡大にもなるのだよね・・・。気のせいだろうか。それでも回転寿司は大ファンだけど。