銀座のライオンビアホールで飲むビールはなんと蠱惑的で、最初の一杯にはいつもクラクラする。外国人の酒飲みの友人が東京に来ると、いつも銀座ライオンに連れて行った。札幌狸小路のライオンも、実に年季の入った店で、夕方早い時間に飲む約束をするのだが、その約束の時間よりもうちょっと早く店に乗り込み、一人でビールを先に飲んでいたりする。札幌駅地下のライオンは昼からビールを飲んでいる旅行者に混じり込み、何食わぬ顔で昼ビールを飲んだりした。新宿紀伊國屋で何冊か本を買い込んだ後、新宿駅東口のライオンで買い込んだ本の目次を眺めながら、ビールをちびりと飲むのが好きだ。確かに銀座ライオンは、日本中あちこちでお世話になっている。
恵比寿アトレの銀座ライオンでランチを食べた。恵比寿にあるオフィスで20年以上働いていたのに、その間は銀座ライオンに入った記憶がない。そもそもアトレで食事をするのも1年に何回か数えるほどだった。ところが、恵比寿の街を卒業して、仕事以外の用事で行くようになると、背徳の昼からビールができることに気がついてしまった。黒ビールをグラスでちびちび飲みながらランチを食べるのは、なかなか怪しい喜びがある。

銀座ライオンは、ビアホールなのだが、古典的な洋食屋でもありオムライスとかスパゲッティナポリタンなど、なかなか豊富な懐かし洋食ラインナップが揃っている。ビールに合う肉料理も多い。個人的な好みで言えばカツカレーが予想をはるかにこえてうまい。カレー専門店よりも好みだ。
しかし、1番のおすすめは日替わりランチで、曜日によって出し物が違う。サラリーマンのランチとしては珍しく、ニクニクしい組み合わせになっている。
マヨネーズ粉がかかったトンカツと、大根おろしのかかった鳥唐揚げという揚げ物コンビも、この調理の工夫で意外とサラッと食べきった。嬉しいのは付け合わせのスパゲッティのケチャップ炒め。これだけを単品で注文したいくらいのものだ。

別の日は小ぶりのハンバーグに和風ソースとおろしのかかったものに、串の刺さったメンチカツとチキン南蛮というこれまたこってり肉づくし。これをランチで食べるとちょっとヘビーかと思わなくもないが、ビールのあてに食べるのだと思えば、実にジャストサイズだ。最近あちこちの洋食屋で見るようになった「大人さまランチ」、そのものだ。
想像するに銀座ライオンの料理長は、ランチのメニュー開発と言いながら銀座ライオン本店や盛場のあちこちにある店で、ランチにビールを飲んでいる客の顔をしっかり思い出しているのだろう。うちの店のランチは飲んだくれの味方でなくてはならない、と固く信じているに違いないのだ。
その料理長の期待に応え、昼のピークをちょっと外した時間に、日替わりランチをつまみにして、ビールを飲みに行くのは、この時世の「夜の活動」自粛を求める、お馬鹿な政治家たちに対する当て付けというものだが、背徳の喜びでもあるのだな。