
成田からLCCで師走の旅をした。北の街との温度差は10度以上ある。機内はそこそこ暖かいのだが、千歳空港に降りた後のことを考えるとかなりの厚着になる。背中にリュック一つ背負っての旅なので、あまりもこもこと着込みたくはないが仕方がない。ダウンの重ね着をしようかと思ったが、そうすると交通機関内では暑くて仕方がない。温度調整に困るのは北向きの旅、それも冬場の特徴だ。

成田では上着一枚で大丈夫だったが、北の街について駅から歩き始めると突き刺すような寒さを感じる。一番外にはアウトドア用オーバーコート、一枚下にはダウンベスト、その下はフリースという防寒仕様で対抗するのだが、一旦室内に入るとこの季節の室温はだいたい27度前後。つまりお江戸であれば初夏の気温だから、筍の皮を剥くように服を脱いでいく。なんとも面倒臭い話だ。地元民は比較的薄着でコートの下は長袖シャツ一枚という着こなしが多い。
そもそも冬には屋外を歩かないのだ。市内中心部であれば、地下歩道が張り巡らされているため、大部分を地下で歩き最後の100mだけ地上を歩くというパターンが確立されている。だから、夜でも人通りは少ないがライトアップされたイルミネーションが雪道によく映える。

その雪国に行く直前には南国高知にいた。やはり12月ということでクリスマスデコレーションが公園を賑やかにしていた。当たり前のことだが、雪はどこにも見当たらない。気温は低いとはいえ雪が降るほどでもない。ジャケット一枚着ていれば夜でも街歩きに問題はない。なのに公園に人影はない。街に人が歩いていないのは、寒さだけのせいではないということだろう。
南国高知では室内が意外と寒い。北国では過剰な暖房が、いわゆる冬の贅沢として習慣になっている。店内が寒いレストランは、それだけで敬遠されるほどた。
ところが、南国土佐ではホテルの館内ですらうっすらと寒い。部屋の暖房を一旦最強に上げてしまうくらいだ。おそらく、冬のあたたかい部屋という概念がないのだと思う。冬の寒さに備えるよりより夏の暑さ対策が重要な地域なのだ。

そのちょっと前には、日本の最南の地にいた。やはりクリスマスを控えホテルの外もライトアップされているが、もみの木ではなく椰子の木だ。南国のクリスマスというのは妙に違和感があるが、それは体感温度のせいだろう。クリスマス=寒い季節というイメージが子供の頃から刷り込まれている。
お江戸に引っ越してきて最初のクリスマスに、雪が見当たらないのが不思議でしょうがなかった。それから随分と時間が経ち、雪のあるクリスマスが特別に感じるようになったが、半袖で過ごすリスマスはやはり珍しい。
ハワイに一年間住んでいた時に、一度だけトロピカルなクリスマスを体験した。クリスマスの当日に、小型のバイクで道を走っていてちょっと寒いなと思ったくらいだが基本は短パン、Tシャツの気候だ。体感温度は25度を超えていた。ハワイに赤い衣装のサンタクロースがいたかどうか記憶にない。赤い服のサンタを見かけたら、その暑苦しい雰囲気で記憶に残っていたはずだから、やはりトロピカルな地域にはトナカイの反りも含めて、存在しなかったのだろう。その後しばらくしてから12月のシンガポールに一週間ほど滞在したことがある。その時は蒸し暑さに閉口したものだが、寒くないクリスマスを迎える地があるのだと再確認した。暑いクリスマスはやはりちょっと変だ。
わずか一ヶ月の間に、日本の南から北まで旅をするなど、なかなかあるものではないなと思うが、その地の常識が違う場所では非常識になるのだと改めて感じた。ただ、雪のあるクリスマスと雪のないないクリスマス、寒いクリスマスと暑いクリスマス、どちらが良いと聞かれると「そもそもクリスマスなんていらない」と言いたくなる。
クリスマスは朝から晩まで働く日で楽しむ日ではないとずっと思っていた。前職でのトラウマの根は深いなあ。