
高知で知人に連れて行ってもらった居酒屋に、一人でもう一度行ってみた。いつもの、食べたいものを好きなだけ食べるというわがままを果たすべく、早い時間に出かけた。人気店なので、ちょっと時間がズレると満席になってしまうようだ。この日も、カウンターに席を取ったすぐ後に、一気に満席になってしまった。

ぶしゅかんは仏手柑と書くらしい。高知特有の柑橘類で、ゆずだかすだちだか忘れたが、その変種らしい。酢みかん、つまり酸っぱい柑橘の夏の代表だと高知の友人に教えられた。これの皮をすりおろして、「メジカのシンコ」刺し身にかけて食べるとうまい。と教えてくれたのは、カツオの町の大先輩だった。そのぶしゅかん+メジカを食べるためには3年ほどかかった。なかなかメジカ漁のタイミングに合わ背て高知にくる機会がなかったからだ。
今では高知人が「メジカ」を求めて狂騒するようで、旬の時期に来てもメジカを食べるのは難しいよと言われた。それも、魚屋の大将から言われたのだから始末に悪い。メジカは諦めるにしても、「ぶしゅかん」は無くなりはしないだろう。おそらく大丈夫なはずだ……………。今年は、ぶしゅかんを焼酎割りにして楽しもうと思った。

とうもろこしの天ぷらも、この時期、高知ではスタンダードなものらしい。これが実にうまい。今では、日本全国で甘いとうもろこしが栽培されているから、産地に限らずとうもろこしの天ぷらが食べられそうなものだが、不思議と高知以外では目にすることが少ない。熱々の天ぷらを塩で食べると、夏が来たなあと思う名品だ。

高知といえばカツオのたたき、ということになっているはずだが、実はウツボのたたきも好物だ。ウツボを食べる文化は高知と和歌山にあると、高知県庁の方に教えてもらった。確かに黒潮は海のハイウェイみたいなものだ。高知から和歌山に行くのは随分と簡単なのだろうし、黒潮でつながる共通の食文化圏であっても不思議はない。
最近はうつぼ漁をする漁師が減ったせいで、ウツボの水揚げも少ないと、これも元漁師の友人に聞いた。
ウツボを養殖するというのはどうだろうか。うなぎやはも、穴子などニョロニョロ系の魚は人気があるのだから、ウツボ養殖もビジネスになりそうな気もするのだがなあ、とウツボを食べつつ妄想していいた。

そして締めにはナスのたたき。「たたき」尽くしの夜になった。高知県でいう「たたき」は物理的にヒットする叩きではなく、焼いて表面を焦がす料理のことだと思われる。
ナスのたたきも色々と流派があるようだが、この店は軽く油通しした茄子に夏野菜をたっぷりとのせている。ニンニク・チップをアクセントにして「たたきのタレ」、要はポン酢しょうゆに似たもので食べる。爽やかサラサラ系の一品だ。これも最近まで知らなかった、高知の家庭料理として定番らしい。この野菜の下にある茄子が、炙った鰹に変われば鰹のタタキになる。
どれを食べてもうまかった。独り占めしてわがまま放題で食べた。腹はパンパンに膨れたが、心はもっと満足だった。いやあ、久しぶりにすごい贅沢した気分になった。高知の夜は「うまいうまい」なのであります。