
島根県、鳥取県、どちらも人口が少ない県の代表メンバーだ。首都圏からはかなり遠いせいもあり、両県の知名度は決して高いとは言えないようだ。ちなみに人口は、鳥取県55万人、島根県67万人で都道府県別人口の最下位とその次に当たる。
ただ、人口が少ない県の特徴としてあげられることだが、県庁所在地が県の人口の半数を占めるほど集中化しているので、実は県庁所在地だけはそこそこににぎやかになっている。それなりに若い世代も多いので、駅前もは現代風の繁華街になっていることが多い。松江は歴史的な背景もあり駅前と、松江城付近の繁華街と合わせて二箇所はかなりの賑わいがある。駅前付近には全国展開するチェーン店が揃っている。
そんな地方中核都市で最近は駅前が意外と再開発されているのだ。地方都市は自動車移動がメインの交通手段で、バス・鉄道などの公共交通機関を利用するのは旅行者か交通弱者(高校生や高齢者)くらいしかいない。
古い街並みが残り駐車場が確保できないことで、自動車移動の客が駅前からはなれてしまい、商店街はすっかり寂れているというのが昭和後期から平成にかけての常識だった。それがどうやらじわじわ変化しているらしい。
例えば岡山では新幹線駅の脇にあった工場跡地を再開発し、超大型のイオンショッピングモールができた。この規模は従来のアーケード型商店街であれば全店をのみこむほどの大きさで、地方都市の商店街が丸ごと引っ越したような規模だ。
ところが、駐車場の整備ができると駅前だろうが郊外のバイパス沿いの立地だろうが客からすれば関係ないということで、平日昼間でも大変賑わっている。最近のイオンは大型店の出店ペースが落ちてきたこともあるが、どうも駅の近くに新店を開けることが多い。田んぼや畑の真ん中に、ドカンと聳えるイオンモールという平成の風景も変わってくようだ。
昭和の後半以降、駅周辺が寂れ切った後で、従来の店舗や雑居ビルなどが撤退した空き地が膨大に出現して、そこが駐車鵜や大型ビルの一大供給地となったのが原因だろう。駅前立地も地価が下がれば、車対応の商業施設に変身してしまう。立地戦略を見直す要因になる。時代が一周して駅前が「地代の安い土地」に成り下がったせいだ。

そんな地方都市の典型のような松江だが、実はずいぶん昔から駅近くに大きなイオンが出店していた。駅からはギリギリ徒歩圏だが、大多数の客は当然ながら車利用だ。ただしフードコードだけは高校生で占拠されている。彼らの移動手段はバスと自転車だから、駅前徒歩立地のモールは集まりやすいのだろう。
そのイオンで発見した大きなPOPに吸い寄せられた。どう考えても、このイオンの利用者は地元民であり、駅前とはいえ観光客は少ないだろうと思う。にもかかわらず「島根の味自慢」と書いてあるのだが、いったい誰に向かって主張したいのか?
ただ、旅行者である自分には確かに響いた言葉だった。このバラパンの存在は、全く知らなかった。バラパンという名前で思い浮かんだのはサバランだった。酒浸しの洋菓子で実は好物だ。言葉遊びでのようだが、語感が似ているからという理由で、商品名をサバランに似せてバラパンなのかと思ったのだが。(言語センスに問題ありだなあ)

なそのバラパンだが、んと山積みになっていた。観光客向けの量ではない。地元民が大量購入する類のものと考えても多すぎるくらいだ。他のスーパーマーケットでも、これほどの単一品種大量陳列は見たことがない。迷うことなく、ひとつ試しに買ってみることにした。旅先でローカルパンを試すのが大好きなので、このバラパンも味違いを含めて買い求めた。

こちらがオリジナルバラパンだ。包装の袋もシンプルで、なんの商品説明もない。島根県民だったら知らない奴などいないよね的にストロングスタイルだった。これと似た感じは岩手の福田パンだろうか。メーカーとしては、少なくとも他県民に知らしめる必要性は全く感じていないらしい。微かに見えるイラストでバラの一輪が散らばっているだけ。

味違いのバラパンも並んでいた。この包装はちょっとだけ親切だ。コーヒー味だということはわかる。ただし、生地がコーヒー味なのか中身がコーヒー味なのかはわからない。やはり島根県民であれば知らんとは言わせんぞ的な圧を感じる。

袋から取り出してようやくバラパンの意味が理解できた。形状がバラを模しているのだ。パンの中は白いクリームで、よもやこれがバラフレーバーかと思ったが、そんなことはなかった。甘さ控えめの昔懐かしバタークリームという奴だ。どうやって食べるのか分からず、とりあえず端からむしって食べてみた。段々と薔薇の花が小さくなっていく。子供が好きそうな食べ方だ。半分くらいに小さくなって、一気に上からガブリとかじってみた。まあ、食べ方は自由だろう。

翌日にコーヒー味を食べてみた。これは中のクリームが薄いコーヒー味だった。これもうまいものだが、オリジナルの白いやつの方がおやつには向いている気がする。
パンのネーミングは、それぞれに地域で展開するパンメーカーの特色が出る。全国ブランドであるヤマザキやフジパンの場合は、商品名が「なんちゃって系な造語」か、身も蓋もない中身そのまま説明しました的なものが多い。チョコメロンパンとか生クリームメロンパンみたいな感じだ。
だから、この「バラパン」という商品名にはうっすらとした色気というか文化が感じられる。言葉使いへのこだわりとでも言うべきだろうか。
滋賀県長浜のサラダパンのように、ルックスと中身の違いがギャップ萌えする人気パンもあるが、サラダパンとは名前がありふれすぎなのが残念だ。北海道や静岡、高知でひっそりと販売されているヨーカンパンは、これまた即物的すぎる名前だなと思うが、あんぱんやジャムパンと同レベルと思えば、それはそれで仕方がない。
だから、このバラパンという商品名は、ローカルパン業界の中で頭一つ飛び抜けた文化性を持っていると力説したい(笑)味ではなく見た目からつけられた名前は、一段とレベルが高いと思う。これに匹敵するのは九州のローカルパンであるリョーユーパン「マンハッタン」くらいしかない。すごいな島根。
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