食べ物レポート

りゅうきゅうとごまさば

ずっと不思議に思っていることなのだが、日本では相当に名高いブランド魚「関アジ、関サバ」は、大分県と愛媛県の中間海域でとられるものなので、大分名物にもなれば愛媛名物にもなるのではないか。
ところが、愛媛に行くと何故か町中が「鯛推し」で、アジ・サバの文字を見かけない。そこで大分県のホームページを見てみたら、なるほどなと理解できた。

参考ホームページはこちら  ↓
https://edit.pref.oita.jp/news-columns/2291/

魚の取れた場所よりは、釣り方や保存方法に特徴があるようだ。つまり、技術により作られた名産品ということだ。

そんな魚の技術大国で、ゴマ鯖を食べた。鯖を甘い醤油タレと胡麻で食べる料理は、よく北部九州で見かけるものだ。熊本や宮崎といった九州南部では見た記憶がない。おそらく太平洋岸の鯖はアニサキスのため生食を敬遠されるのだろう。日本海側の鯖にいるアニサキスはあまり悪さをしないらしいので、福岡あたりでは、このゴマ鯖が居酒屋のメニューに当たり前に載っている。瀬戸内海の鯖は生食できるのだろうか。その境目が大分愛媛巻の海域、豊後水道なのだが。


タレの量や胡麻の量に差はあるが、基本は甘い醤油タレで鯖を食べるというものだ。これを食べると、ちょっとした生きている幸せを感じられる。個人的にはマイベスト5に入る食べ物だ。居酒屋に入ってメニューにゴマ鯖の文字を見つけると、ほぼ自動的に注文してしまう。
不思議なのは、日本海側の港町、つまり島根県から青森県に至るまでの地域でも鯖は広くとられていると思うのだが、ゴマ鯖を食べられる街がない。少なくとも自分の行った店では、九州を外れるとゴマ鯖が消えている気がする。山口県の西部あたりでは食べられているのかもしれないが。これもいつか確かめてみたいものだ。
お江戸には間違いなく存在しない。(一部の九州料理店ではあるのかもしれないが)

そのごまサバとに似た料理というか、大分県特化型メニューが「りゅうきゅう」という食べ物らしい。味付けは胡麻鯖に似た甘い醤油タレが切り身に絡んでいる。鯖だけではなく、刺身にする魚であれば良いらしい。確かにアジを使ったりゅうきゅうは美味かった。白身魚で作るのかどうかはわからなかったが、この甘いタレで食べる切り身は実に美味しい。薬味は好みで適当で良いらしいので、その辺りもなかなかのゆるさが心地よい。美味しく魚が食べられるのであれば、小うるさい作法はあまりいらない。個人的には海苔と胡麻を合わせるのが良さそうな気がするが、生姜やニンニクを合わせてもうまそうだ。
瀬戸内海は古代から中世にかけて日本の先端技術地域であり、醤油文化(つまり都会の味付け)が先行して発達した地域だ。豊前豊後も瀬戸内文化圏では西方先進地域あたる。たから生まれた醤油料理が「りゅうきゅう」なのだろう。
房総名物のアジ料理「なめろう」に味噌が使われているのとは対照的で、東西の文化成熟度の違いみたいなものが現れている気がする。徳川政権が京都ではなく江戸に首府を構えたのは、やはり西方先進文化による文化汚染(侵食)を恐れたからなのだろうなあ、などと美味い魚料理を食べながら食に見る東西文化格差を考えていた。

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