
高知駅前から伸びる路面電車は、はりまや橋の手前に停車場で止まる。そこから高知一番の繁華街であるショッピングアーケードが始まる。テレビ番組の街頭ロケでインタビューを受ける高知県民はだいたいこの通りの通行人だ。
アーケードを脇に逸れると飲屋街が広がる。高知の飲屋街は、高知市の人口を考えると桁違いに広いような気がする。酒にかける使命感が他県民とは違うようだ。県民性というものだろうか。
入り口で気がついた「婚礼ふとん」というのは、初めて見てなんのことかと目を疑ったが、確かに意味はわかる。結婚したら新しいふとん(ベッド)は用意するものだろう。ただ、それを宣伝する店というのは、初見だったというだけだ。

そのアーケード街をあるいて反対側のはずれに、高知市民、いや高知県民が誇るであろう名物スポットがある。全国あちこちに屋台村や〇〇横丁という名のつけられた人口的な屋台団地みたいなものはある。小ぶりな店がぎっしりと詰まっているのはなかなか楽しいものだ。
しかし、この市場は、そのような全国に散在する屋台村とは一線を画す「独自」なものだ。あちこちに旅をしてきたが、このひろめ市場はワン・アンド・オンリーな存在だ。他に類を見ない。強いて言えば、沖縄にある公設市場の2階が、多少なりとも似ているくらいだろう。公設市場2階はたくさんの食堂が集まっている場所で、食堂でありながら昼から宴会をしている人も多い。観光客にも人気のスポットだ。しかし、そこはまだ沖縄風ではあるが日本である。
この高知の市場は、ほとんど日本を超越した雰囲気があり、まるで台湾の夜市や、シンガポールのホーカーのようなアジア的カオス感がジ充満してる。店の組み合わせもあれこれ言いたくなる無軌道なすごさがあるのだが、そこのあちこちに客席が無造作に並べられている。
いわばフードコート、いやフードホールのようなものなのだが、飲食店だけでなく弁当屋や鰹のタタキ実演の店が区画割などないままにあちこちに存在する。物販の横が居酒屋でその隣がかまぼこ屋だったりする。ともかくカオスだ。
おまけに通路のあいているところにかたっぱしからテーブルや椅子を置いたので、そこで物を食べていると通行客が背中を擦っていくという、ほぼ路上飲食に近い状態だ。だが、誰もそれを気にしない。
コロナのドタバタが終わり外国人観光客が戻ってきたこともあり、市場内のカオス度はもっと高まっている。周りを飛び交う会話が日本語であっても難解な高知弁、その上を押さえ込むようにチャイニーズの甲高い響き、その隙を縫って英語やフランス語が聞こえてくる。何度も繰り返すが、カオスなのだ。混沌としているとしか言いようがない。そして、誰もが幸せそうな顔をして飲食に励んでいる。

一番混雑している大スペースを抜けだし、小ぶりな席がいくつかある場所でようやく席を確保した。目の前にあるのは、空港の到着ロビーで宣伝していた居酒屋だが、この店もタイミングが悪いとたっぷり行列している。
おまけに、高知県民であるらしいおばちゃんがネイティブな速度で高知弁会話を繰り出してくる。こうなると言語の理解速度が外国語会話並みに遅くなる。試練だ。

それでもなんとか、青のりのかき揚げと鯨の串カツという高知ローカルな食べ物を注文できた。めでたし。どちらもうまい。が、よく考えると揚げ物2種ではないか。

座っている隣の店はチキン料理屋だった。反対側には屋台餃子の店がある。注文する物は多種多様に存在する。なのに、揚げ物2種とは、とほほという感じもするが。まあ、カオスな場所だし、次来た時はもう少しバランスとか彩りとか考えようと諦めた。頭の中までカオスになっていたらしい。