食べ物レポート, 旅をする

ジンギスカンの旅

こリスマスという期間は、人生の大半の時期をただただ忙しく働く日だと思って過ごしていた。神社やお寺の初詣の混雑と同じで、一種の職業的な宿命と諦めていた。それが、ここ数年はコロナのせいでもあり、家にいておとなしく過ごす時間と変わっていた。ただ、長年の夢であったクリスマスに何か休みっぽいことをしてみたいという思いもあり、たまたまポカリと空いた時間に路線バスでプチ旅行をしてみた。
実家のある郊外駅から路線バスに乗り、およそ1時間ほど離れたところに温泉兼キャンプ場という施設がある。冬だからキャンプはできそうにないが、温泉客は多いようだ。バスは温泉施設の入り口前に停車するので、なんとも便利な施設だ。ただ、流石にクリスマス当日に温泉にいく酔狂な客はいなかった。終点で降りたのは自分一人で、やはりクリスマスは誰かと一緒にすごすものなのか。
ただ、その温泉に行く途中の景色が、まさにThe北海道の冬という感じがした。真っ平な場所が延々と雪で白いというものだ。夏は、この辺り一帶、すべて畑か水田だったはずだが、雪に埋もれて見当もつかない。

キャンプ場の受付も兼ねる建物にジンギスカン専用レストランがある。世間的には「チキン」を食べる日だが、自分だけは羊肉を食べるのだという高揚感がある。
ところが、レストランにに入ると昼前にも関わらず、何組かの「アンチ・チキン」派と思われる客がいた。世の中には変わった人が多いものだなあ、と自分のことを棚に上げて感心してしまった。
ちなみに、室内はジンギスカン特有の匂いが充満している。入った瞬間から、帰りのバスの中を思い(つまり自分がジンギスカン臭を強烈に放つことへの申し訳なさ)ちょっと怯んでしまった。

単純な注意事項だが、温泉に入ってあとに、帰りぎわでジンギスカンを食べると、身体中が羊肉臭くなるので、温泉に入った意味がなくなる。ジンギスカンを食べてから温泉に入るという手順が正しいので、それを間違ってはいけない。
ちなみに、なぜこの場所にジンギスカン・レストランがあるかといえば、この町が味付きジンギスカン肉で有名だからだ。肉屋兼レストラン営業をする店もあるくらいだ。最近はすっかり主流になったタレ付き肉のジンギスカンだが、昔は冷凍肉をそのまま焼いてタレにつけて食べるのが、札幌圏ではスタンダードだった。だから、初めてタレ付き肉を食べた時は相当に驚いた。これまた邪道な食べ方だな、という感じだった。

ジンギスカンといえば七輪を使った炭火という固定概念があるが、現在は技術革新もあり無煙ロースターのような「煙吸い込み」グリルで、煙まみれにならずに済むらしい。すすきののジンギスカン屋もこうなっているのだろうか。数年前に行った店は、伝統的な煙モクモク、排煙施設なしの人間燻製製造機みたいなものだった。技術革新とはありがたいものだ。

このレストラン・オリジナルも含め3種類の肉違い(味違い)セットを注文できる。昔は肉をマトン(親)とラム(子)で分けたものだが、今ではロースという言い方もあるらしい。これはラムなのかマトンなのかと聞きたくなる。最近の北海道におけるジンギスカン事情に疎すぎるなと思い知らされた。
この一皿が二千円程度なので、焼肉屋に行ったと思えば、まあ普通な値付けだろう。ただ、個人的にジンギスカンとは焼肉の半額程度で、庶民のというか貧乏人の焼肉だという強固な思い込みがある。だから、ジンギスカンも随分と高級化したものだと改めて思った。
北海道では有名なジンギスカン肉ブランドの本店(滝川市)で食べたものより価格は高いのではないかという気がする。札幌市内にある、某ビールメーカー工場跡地の巨大レストランはなかなかの高級店だ。観光客目当ての価格設定でもある。そのレストラン並みという感じだ。
夏にはキャンプにきて、この店で肉を仕入れて屋外ジンギスカンを楽しむというのは良いアイデアのように思える。次回は夏だな。
とりあえず3食食べ比べをしてみたが、お気に入りは真ん中の肉だった。

この場所にバスで来たのは意味がある。北海道限定ビールを楽しむためだ。工場跡地レストランは観光客客向けの一大テーマパーク的な賑やかさがある。お客さんを連れて接待するのであれば、まさにぴったりな場所だ。そこであればビールもジンギスカンも堪能できる。ただ、一人でひっそりとジンギスカン&ビールを楽しむのであれば、工場跡地レストランは賑やかすぎる。八代亜紀的演歌な環境が望ましいが、店内が暗すぎると肉の焼け具合がわからなくなる。ほどほどに明るくて、ほどほどに静かなところが良い。まさに、郊外の店で、それも人が集う日にだからあまり混雑していないはずで、ひっそりと一人ジンギスカン道を嗜む。我ながら、良い場所を見つけたと思った。

この日も食べたのはジンギスカンのみ。全く夾雑物なしのストロングスタイルで楽しんだ。たぶん、こんなストイックな(笑)クリスマスの楽しみ方は、最初で最後だろうなあと思いながら。

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