
岡山駅正面に立つ高島屋の裏手は、どうやら岡山の飲み屋街にあたるらしい。もう少し西側に行けば、ちょっと怪しいお店も存在しているようだが、岡山は立派な教育県なので風俗店は見当たらない。まあ、健全な飲み屋街で間違いないだろう。
その裏通りを彷徨き回っていると、タバコを吸いに表に出てきたらしい居酒屋のお兄ちゃんに声をかけられた。看板を見るとなかなか良さげではあるのだが、前日も焼き鳥を食べたのでどうしようかと迷ってしまった。
特にいくあてがあるわけでもなく、岡山名物〇〇がたべたいという欲求もない。行き当たりばったりで、どこかの店に飛び込もうとしていたから、通りをもう一回りしたのちにこの店に入ることにした。

注文をするときに、先ほどのお兄ちゃんが「「戻って来てくれてありがとう」と一言かけて来た。こちらは曖昧に頷き、おすすめはと聞くと鍬焼きはどうかと言われた。いつものように、「じゃあそれで」と全く人任せな注文をしてしまった。その後で、メニューを真剣にみて追加を選ぶことにしたのだが、結局追加したのは鶏皮の酢の物だった。

当然ながら、こちらの方がすぐに出てくる。食べてから後悔した。この鶏皮はうますぎる。鶏料理はこれだけにしておいて、別の肉を頼めばよかった。まあ、旅先でよく起こる居酒屋あるあるだった。
しかし、旅先で居酒屋に入るたびに思うことだが、なぜお江戸の居酒屋と同じ名前のメニューがこんなにうまいのだろうか。お江戸を標準にすると、人生ちょっと不幸なのではないか。
まったく感覚的な話だが、お江戸より2割安く、お江戸より2割以上美味いのが地方都市の居酒屋レベルだ。初めてお江戸に出てきて入った居酒屋の法外と思える値段と、出されたものを食べての落胆を思い出す。まあ、それにもすっかり慣れたけれども。

続けて出て来た鍬焼きは、平たく言えばクワのような形の鉄板で焼いた鶏肉で柚子胡椒をつけて食べるものだ。宮崎名物、地鶏焼きインスパイアな料理だった。こちらもうまい。ただ、一人で食べるには量が多い。一人飲みの欠点は、時にこうした大ボリュームメニューに当たってしまうことだ。
鶏皮もかなりの量だったので、この日は鶏料理二皿で満腹になってしまった。うまいものを食べた報いだと諦めるしかない。できれば、もう一品か二品試しにたべてみたかったなあ。鳥肉に関しては素晴らしい店だったから、他の肉も試してみたかったのだが。

ほろ酔い気分で歩いていた帰り道、これまた声をかけれらたのだが、その声が随分と小さい。教育県岡山には存在しないと思っていたキャバクラの呼び込みで、確かに見上げてみれば、一見するとやたら明るいスポーツバーのようにものがある。それがキャバクラらしい。というか、こんな明るい健全ムードでキャバクラ営業できるのか、さすが教育県だなと変な感心をしてしまった。
こちらの客引きはあっさりとご遠慮してホテルに戻った。岡山の夜、二人の客引きに声をかけられたが、なんとも不思議な街なのだ。