旅をする

瀬戸内 バスの旅で海賊島を見る

今治から1時間強かけて、島のバスターミナルに辿り着いて、そこから乗り換え

瀬戸内の島というと小舟が通う小さな島がたくさんというイメージがあった。今回、バスを使って移動することになり、まじまじと地図を眺めてみると瀬戸内海には結構大きな島があるのだと気がついた。
そもそも瀬戸内海は太古の時代、大きな盆地だったのが、ある時突然海の水が流れ込み、大きな湖から外海に繋がる内海になった。その時、盆地の中にある高地、山が今の島になったようだ。
だから、広島県尾道から愛媛県今治に続くしまなみ海道の島々は、実は瀬戸内盆地の高山だったということだ。その島の間の潮流は、高山の谷間を流れる急流みたいなものなのだと、地図を見て理解した。
日本の地理は小学校から習っているはずなのに、この歳になるまで瀬戸内をまともに見ていなかったのが明らかになった。(瀬戸内に限らずだけれども)
その島の間を船以外で移動するには、大きな橋でつながったとはいえ鉄道はな。バス移動になる。某旅番組で路線バスの旅を面白がってみていたが、ついに自分でバス旅をすることになるとは思わなかった。

全く地理感覚もなく、地名もわからないとバスの旅は実に難しいと、バス旅を実践してみるとよくわかる。バスの停留所前で次のバスが来るのを30分、40分と待つのも当たり前だと分かった。
ホームに上がれば五分と待つことなく電車が来る都会暮らしに慣れていると、この待ち時間の長さが気になるところだが、すぐに諦めがつくようになった。お天気が良ければ、バス停の前でぼーっとしていてもあまり気にならない。ありがたいことに、たいていの停留所にはベンチがある。
今治を早朝に出て、高校生の通学バスの中に紛れてこんで島に渡った。ちょっと時間があったので寄り道をしてみた。昔読んだ「村上海賊の娘」で登場した能島を見てみたいと思ったからだ。

能島は大きな島の間にポカリと浮かんで見える実に小さな島だった。こんな小さい島でで城を築き暮らせるのかと思うほどだ。港から見える能島の向こうには大島と伯方島を結ぶ大きな橋が見える。地図で見ると能島は大島と伯方島の間を塞ぐような1にある。ここを海路の関所にするのは当然という感じの場所だ。ここを避けたければ、ちゅごく側に回って尾道周辺に抜けるしかないが、そこには因島の海賊が待ち構えている。村上海賊は海路を完全に押さえ込んでいたのだ。

よく広さを例えるのに後楽園ドーム何個ぶんみたいな言い方をするが、パッとみた感じで能島はドーム1個分くらいの島に見える。

能島をのぞむ位置に立っているのが村上海賊の博物館だった。これがいつ出来たのかはわからないが、「村上海賊の娘」がベストセラーになったことで能島と村上海賊が有名になったのは間違い無いと思う。
主人公の海賊姫は、戦国期の破天荒な人物として描かれているが、人の命が軽い時代を飄々と生き抜く典型的な性格でもあり、人を斬り殺すことにも躊躇いがない。その明るい残酷さみたいなものをベースにして、海賊姫が変転していく様子を描いた時代小説の傑作だ。登場するキャラのほとんどが、人の命などかけらも大事に思わないバトルジャンキーばかりだが、なぜか物語は明るい。
その「村上海賊ストーリー」を知識のベースにして、このミュージアムを見るとなかなか楽しい。村上海賊は、お話に出てくる以上に「正義の味方」になっている。身贔屓と言えばそれまでだが、歴史の一翼を担ったご先祖さまは大切にするものだろう。
やはり全国各地にある戦国期のメモリアルな博物館は、しっかり時代背景を勉強していないと楽しめない。
戦国期ではないが明治の内戦に関しても地域で評価は違う。東北各地の博物館・歴史館では、戊辰戦争は防衛戦争で、官軍は侵略者という立ち位置を取る。これが西国の博物館になると、官軍対朝敵の討伐戦となり、革命ではなく維新であると美辞麗句で語られる。歴史とは声の大きいものによって語り継がれるフィクションだということがよくわかる。

こうした歴史博物館は、舞浜にあるネズミの王国のように、あまり基礎知識なしで楽しめるエンタメ系施設とはちょっと楽しみ方を異にするので、オヤジ向けといえば確かにそうだろう。子供が来ても楽しめるアトラクションもないし。

お決まりのゆるキャラもお出迎えしてくれるが、実は2階の展示室がすごかった。大変お勉強になったし、瀬戸内を中心とした海運と海賊の関係もよく理解できた。ありがたやだ。

ただ、一番感心したのは建物の外に置かれていた海賊船のレプリカで、こんな小さな船でそれも櫂で漕ぎながら航行したというのだから、これはびっくりだった。大きな船であれば漕ぎ手はまさに奴隷みたいなものだっただろう。

バスの乗り継ぎでたどり着くとまさしく秘境への旅みたいな感覚になるが、実は今治市内から自動車で1時間弱で簡単に辿り着ける。自動車で旅するのであれば、しまなみ海道を通る時に、ついでに立ち寄るお手軽スポットだった。
別に不便を求めてバス旅をしたつもりもないが、これまではずうっと飛行機とレンタカーをつなげた便利旅ばかりしてきたので、色々と学ぶことも多かった。だバス旅が、今更というかこの歳になってというか、あたらしい旅の仕方を学んでもねえ。
気分の上だけでもバックパッカーになったような……………島の旅でありました。

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