
新潟のナイトライフで外してはいけない名店がある。(らしい) 新潟に住む家族によれば、なかなか予約の取れない名店とのこと。居酒屋というにはレベルが高い、お手軽な割烹といった感じの店で美味しい晩御飯を食べることになった。
調べてみると新潟では複数店を展開している外食企業だった。店の名前に魚の一文字が入っているが、店名は別々なのでちょっとチェーン店とは異なる。去年の夏に行ったのは駅の反対側だった。今回は、新潟駅北側の一角にあるビルの中の店だった。

ファサードと入り口の作り込みが上手い。これから出てくる料理に期待が高まるというものだ。一般的に、居酒屋はファサードの作りに手を抜きすぎる。意固地な経営者がレストランや居酒屋は味が勝負、味で勝負などとと思い込んでいるせいだ。
客の目線に立ってみれば簡単に理解できることだが、味だけで店を選ぶのはごく限られた変人だけだ。一般的には味と雰囲気と接客のバランスで、また来る店にするかどうかを決める。今風に言えば、トーラルバランスと映える料理とコスパによる統合された判断だ。「味」は、必要条件であるが、十分条件ではない。
故に、入口の見かけはもっとも重要な顧客との接点、First Impresion の勝負点だ。この店は、入り口に入る前ですでに合格している。



料理も同じで、見栄え8割くらいに思っていてちょうど良い。とくに、料理の質を感じさせる「器」が重要だ。この店では席に案内されると卓上に大きな土鍋が置いてある。
これはお通しの魚を蒸すもので、最初にザルに盛った魚のあれこれを従業員が持ってきて見せられる。その中から一人一品を選び、土鍋の中で蒸しあげる。10分ほど待つと蒸し上がるようだ。
この日選んだのは、こぶりなふぐの干物で塩加減がちょうど良い塩梅だった。この蒸したフグを肴に、ちびちびと新潟の地酒を飲んでいた。店内は冷房がよく効いて爽やかなので、ぬる燗にしてもらう。
隣のおっさんたちの蛮声さえなければ完璧になるくらい良い店なのになあ。コロナの後、あれほど静かだった居酒屋が、また元の大音量絶叫空間に戻ったのは残念で仕方がない。ただ、どこの居酒屋でも店内の光景を見ている限り、若い方たちはそれなりに静かなのだ。絶叫系オヤジ、オバンはだいたい四十代後半から五十代に多い。学習効果が足りないのか、学ぶ気がないのか。「羞恥心」とか「たしなみ」という言葉を学ばないまま、歳をとってしまったのだな。きっと。
おそらく現代日本では、その人生で一番恥を知らない年代なのだろう。

刺身の盛り合わせにのどぐろを追加したものがこれで、新潟の地魚を組み立てたもののようだ。面白いなと思ったのが、佐渡島沖の魚が珍重されているらしい。佐渡島沖と言っても南側の海は新潟との間の海だから、どこまでが新潟沖でどこからが佐渡沖か、クイズみたいなものだろう。おそらく珍重されるのは、佐渡島北方海域、つまり大陸との中間点あたりが、佐渡島沖扱いになるのだろうと思った。ただ、付きせぬ疑問だが、そこで獲れる魚はどんな種類なのだろうか。
皿の上を見る限り少なくとも太平洋で採れた魚は並んでいないようなので、ちょっと嬉しい。ただ、日本海に紛れ込むマグロを一本釣りした、みたいな伝説的マグロであれば歓迎するが。

今ではすっかり漁獲高が減ったらしいイカだが、日本海側の各所ではまだそこそこ採れているようで、この日は地元イカの天ぷらを注文した。イカはいつ食べてもうまいなと(個人的な嗜好が入るが)、バリバリと頬張る。天つゆではなく塩で食べるとうまいとも言われた。確かに、天ぷらは塩で食べるとうまいネタは多い。
その塩についても何やら蘊蓄を聞かされたのだが、隣のおっさんの蛮声に遮られよく聞き取れなかった。残念。ただ、塩て食べた天ぷらはあっさりとして、大変美味いものだった。(特にゲソ)

新潟駅北側にある飲屋街は、新幹線駅によくある新興繁華街のはずだが、新潟の伝統的繁華街である古町界隈を超えた賑わいのようだ。新潟市は政令都市とはいえ、いささか小ぶりな町だが、駅前とバスセンターと古町という三つの繁華街が併存している。
この町で住む人たちには当たり前なのだろうが、あちこちの地方中核都市を見てきた経験からすると、街におへそがないちょっと不思議な都市だ。
この暑い時期をずらして、もう少しのんびりと街歩きをしてみたいとは思う街だ。ちなみに、新潟は「あぶさん」の出身地だということを思い出した。新潟市内のどこかにあぶさんの銅像でもないのだろうか。個人的にはあぶさんの話が水島野球漫画の最高作品だと思っているのだけれど。
追記:気になって調べてみたら、なんと古町のアーケードに銅像があるらしい。古町には夜に行ったので気が付かないまま帰ってしまったようだ。実に、また残念。