旅をする

会津若松駅からぶらり歩くと

JR会津若松駅から隣駅「七日町」まで歩くと20分程度だろうか。七日町は会津と越後を結ぶ越後街道沿いに広がる繁華街だったそうだ。今では、だいぶ観光客向けの店に変わっているが、土蔵や木造建築が立ち並ぶ。老舗の漆器店などもあり見た目に楽しいまちだ。その七日町まで、観光客向けの市内循環バスが通っている。そのバスが通る道沿いに、会津若松駅から七日町の駅まで歩いてみた。

駅から5分ほどの距離にある喫茶店で、店頭看板というには物々しい懐かしのヒーロー像を発見した。ただ、喫茶店の店名とは全く関係がなさそうだ。石巻の町では、街全体で「サイボーグ戦士」の像が市民の安全を見守っているが、その兄弟分であるこのヒーローも会津の平和を守るため日夜活躍しているのだろうか。
軽食もできる喫茶店のようなので、晩飯でも食べに行こうかと考えていた。ちなみに、このヒーロは数ある石ノ森ヒーローの中で、おそらく一番悩み深い性格だったと思う。ギターを担いだ渡り鳥的な生活は、ヒーローにも辛そうだなと思っていた記憶がある。

そのすぐ近くに、これまた伝統的な大衆食堂を発見した。店頭のサンプルケースをのぞいてみると、食べてみたいメニューが大量にある。ヒーロのいる喫茶店にも心を惹かれてはいたが、今日の夕食はここにしようと決めた。
だが、午後7時に来てみたらすでに閉店していた。あまりに夜の閉店が早すぎる。実に残念だ。

サンプルケースにある説明を読むと、会津ソースカツ丼はどうやらこの店が発祥らしい。ちょっと前にテレビでみた旅番組で、会津ソースカツ丼の話が出ていた。なるほど、ここが生誕の地だったのか。カツ丼を好んで食べることは少ないが、この店のソースカツ丼は姿勢を正して食べてみたかった。再訪するしかないなあ。

おそらく休業しているらしい薬局の看板がなんとも懐かしい。もはや販売しているのかどうかもわからないが、グリーン仁丹とはなんとも懐かしい。仁丹といえばジイ様がよく食べているジジくさい何かだった。食べている周りまで、いかにも薬臭い匂いがする。仁丹とは湿布の匂いと共通する、古い薬というイメージがあった。
ところが、グリーン仁丹は若者向けの爽やかな「フレッシュ仁丹」みたいな感覚があった。ただ、仁丹に爽やかなイメージを持たせるのが難し買ったのだろう。ブレスケア商品としては、いつの間にかミント系で洋風な名前のついたタブレットに置き換わってしまった。

その先を歩いていると、漆器店の脇にちょっと窪んだ空間があった。なんだろうと覗いてみると、eyesと店名らしきものがある。後ろには小さい扉があるようだ。銀座のクラブや六本木の隠れ家レストランあたりだと、こんな小粋な体裁の入り口があるが。漆の器を売る店が夜の営業、二毛作でバーをやっているだろうかと頭の中で疑問符が点滅する。
しばらく考えて閃いた。eyesはアイズとよむ。つまり「会津」のことなのか。読み解く難度の高い店名だったのだ。どうやらバーなどではなく工房のようだ。(いまだに正体は不明だが)実におしゃれなファサードだと感心した。
その近くに民家を改造したカフェがあった。引き戸を開けると落ち着いた空間がある。ただそれ以上に感心したのが、引き戸の上にある欄間だった。普通のレストランであれば、この欄間の位置には内照式の看板をつける。
そこに、ガラス枠に嵌め込んだ細工の整った欄間を飾るセンスはすごい。夜になれば店内の照明が薄く漏れてくる綺麗な飾り窓になるはずだ。
全国あちこちの観光都市を歩いてきたが、改めてみると会津若松の町は美的センスのレベルが高い店が多い。おまけに民家を改造した木造建築の店舗ほどセンスが良い。通り全体をタウンマネージメントで体裁を整える街もあるが、どうやら会津若松の駅前から通じる道は、「個」の力、センスで出来上がっているみたいだ。

やはり旅先は徒歩で歩き回らなければ見つからない「良さ」や「楽しみ」がある。この日、会津若松は日本で一番暑い場所の一つだった。熱中症の危機を覚えつつ街中を歩き回り、感動するやら、気が遠くなるやら。次回は、少し涼しくなった時期に来たいものだなあ。

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