
北の街で駅前通りにできた新築ビルの地下に、おしゃれなパン屋さんが開店しているのは知っていた。おしゃれな店だから「パン屋」さんとか「ベーカリー」とは言わない。フランス語らしきブーランジェリーというおしゃれな言葉が使われている。
あまりにおしゃれすぎて敷居が高かったのだが、たまたま他に誰もいないタイミングで、こっそり並んでいる商品を見て歩くと、おやまあ的な美しいパンが並んでいた。ここぞと気合を入れて、メロンパンを買ってみることにした。

白い粒々が上面にある、なんとも不思議な形状のメロンパンだった。生地はブリオッシュという高級生地だ。白いつぶつぶは、氷砂糖らしい。食べるとカリカリっと砂糖が口の中でつぶれていく。想像を絶する甘さだ。当たり前だが、砂糖の塊を食べているのだから仕方がない。氷砂糖の食感と柔らかいブリオッシュ生地のアンバランスが職人さんの狙いだろうか。
高級感はあるが、かなり甘いのが難点かもしれない。甘党にはこれくらいのパンチのある甘さが評価されるはずだが。この半分くらいの大きさにしてくれると自分としては良いのだけど、などと思ってしまった。確かに、変わったメロンパンとしては絶妙なものだった。

最近好みのクイニーアマンもついでに買ってみた。表面のキャラメリーゼが重要ポイントだが、これは食感を楽しむ食べ物なので、特にカリカリ感が大切だ。
甘さが控えめなクイニーアマンにはお目にかかったことがないが、これも強烈な甘さを楽しめる一品だった。和菓子と比べると「甘いパン」の甘さは、まさに食として段階が違う別物の強烈さなのだが、最近はこの強烈さがすっかり気に入っている。
まさか、甘さを感じる機能が低下したとも思えないので、やはり歳を取ると子供と同じように単純な味に好みが移るのかとも思う。
微妙な甘さとほろ苦さのバランス、みたいなものは最近どうでも良いのではと思うようになった。
メロンパンは単純な甘さの典型だが、クイニーアマンに代表される最近の流行り物は、やはりもう一段上の「強烈さ」が評価のベースにあるようで、和菓子と抹茶的な危ういバランスを楽しむのとは、違う世界の食べ物なのだろう。甘さの世界では和菓子と洋菓子職人の世界観が違うとしか思えない。
最近は洋菓子方向に思考が移っているのだが、舌が幼児時代に回帰しているということだろうか。もしそうだとすると、これは幸せなことなのか。甘い甘いメロンパンを食べ歩きながら感じる、己の不条理みたいなものだな。
ただ、世界は間違いなく「とても甘いものが好きな」方向に変わっていっているのも確かだ。アメリカ人に日本の菓子は甘すぎる、と言われる時代がやってきそうだ。