小売外食業の理論

居酒屋DX 予想以上に高度化

平成生まれのオヤジ向け低価格酒場、大衆酒場の元祖というべきこの居酒屋が10年ぶりくらいで店頭イメージの改装を行なった。あまりの変わりぶりに、最初は店が潰れてしまい、後釜が入ったのかと思ったほどだが、よくよく見ると店名は同じだった。
そもそも昭和の大居酒屋チェーンが、平成不況の真っ只中で代替わりというか時代に合わせて変化対応した業態だった。それがコロナの大暴風の中で、令和バーションに進化したようだ。
コロナ期には、流石にこの店もメイン顧客のオヤジたちですら自宅待機やら早期帰宅やらで利用が減っていたはずだ。
おそらく家庭内圧力もあり、帰りに一杯というオヤジ行動は制限されていたはずだ。コロナ時代の「狂気」は過ぎ去ってみれば笑い事だ。が、社会全体が牙を剥いたような魔女狩りをしていたことをエアすれてはいけない。その魔女狩りで滅びつつある業種は多々ある。パチンコ屋などはその典型だろう。夜の商売も元通りに復活するのは無理ではないか。演劇などのエンタメ系ビジネスでは、脱落した演技者やスタッフが業界復帰できるのだろうか。
当時は大多数のオヤジたちが所属する家庭でも、魔女狩りのような行動制限が続いていたことは間違いない。居酒屋はとんだとばっちりを食らった。そして3割が消滅した。

改装された入口周りのイメージチェンジは理解できる。商品のわかりやすさを全面に押し出している昭和や平成ノスタルジーを感じさせるメニューばかりだ。開業当初のコンセプトである「安い」は表面上消えたようだ。安い居酒屋からノスタルジー・郷愁メニューへ転換はマーケティング的には大きな意味がある。「安い」を支えていた若者には期待しないという対象顧客絞り込みの表れとも見える。オヤジ専科として生きていく決意表明みたいな気もする。
店内に入ると、いきなりQRコードを渡され、これでスマホから注文できるという。ただ、「もしよかったら………」という追加ワードがあり、なるほどオヤジの中にはスマホ非対応というかガラケー依存者もいるからなあ、その辺りの微妙な対応が何やら情け深いのか、こちらをデジタル・ダメオヤジと見下されたのか、あれこれ悩ましい。周りを見渡すと、やはり口頭注文も多いから、仕方がないか。
気を取り直して、QRから画面を読み出してみた。なかなか使い勝手は良い。某回転寿司屋や多くの居酒屋に置いてある、注文のしにくいタブレットから比べると数段上のレベルだった。画面遷移もわかりやすい。
蛇足だが、注文用タブレットの開発者(発注企業内担当者だけではなく製造側IT企業を含む)は、本当に店で注文したことがあるのかと言いたいくらい、バカロジック、ダメダメシークエンスの塊が多い。きっと低予算、低開発能力でやっつけてしまうせいなのだろうな。

新メニューとしては揚げ物が増加していた。それと、定番メニューを含め値付けは1割ほどあげたように見える。新製品は旧製品との入れ替えを含めメニューの半分以上になっていた。定番メニューは値上げをしたまま残している。売上点数の低い定番はカットしたので、値上げを目立たせないうまいやり方だ。値上げしても注文したくなる定番を残し、値上げを目立たせないように新商品群を大量投入して新しいプライスラインを作る。上手だなあと感心した。

定番商品については細かく手を入れている。例を上げると定番マカロニメニューは1割以上値上げしながら、見た目で5割くらい増量している。勝手な想像をしてみると、メニューを改定するにあたり、単純に値段を上げたのではない。これまでの販売実績から、一人当たりの摂取重量であるとか注文数や注文の組み合わせなどを分析したのではないだろうか。いわゆるトランズアクション分析だ。大衆居酒屋がそこまでやるか? 考え過ぎかもしれないがと思いつつ、量が増えたメニューもあれば減っているメニューもあり、原価だけで調整したようにも思えない。大規模データ分析は、今後の外食企業における主要分析技術になる……………はずなのだがなあ。メニューのABC分析程度でお茶を濁して生き残れる時代ではないだろう。

新価格コンセプト(と勝手に命名してみた)で、おそらくこれが導入目的の一つ「原価の調整用新メニュー」だと思ったニラ料理だ。目的は、「低価格」「低原価」「高粗利」の実現であるはずだ。
ニラをぶつ切りにして辛いソースをかけるだけ。オペレーション・フレンドリーでもあり、今回の新製品投入では、メニュー体系の見直し、商品のイン&アウトを検討したような気がする。

そして、なぜか店内メニュー札を含め「推しメニュー」になっていた焼きそばの存在だ。これも明らかに低価格・低原価・高粗利商品に見える。焼きそばながら具材はほぼない。キャベツすら存在しない。お祭りの縁日で売られる屋台の焼きそばより簡素だ。これ以上はシンプルにできない究極の「素・焼きそば」だろう。青のりとマヨネーズで食べる「素・焼きそば」は、ほとんど「酒のつまみ」と化している。量も食事というには少ないが、これをつまみに酎ハイを飲むとすれば逆に、多すぎる量かもしれない。
スマホ注文だけがDXではないのだ、としみじみ感心した。メニュー、それも量と価格の再検討をした上で、注文画面のメニュー配列も検討したはずだ。
オヤジ向けの大衆居酒屋で起きている進化こそ、苦境に喘いでいる外食産業各社が学ぶべきことだろうなあ、と焼きそばをつまみながら真剣に考えた。ちなみに日本最大のファミレスチェーンは自社のDXをあれこれ喧伝しているが、実は単純値上げしかしていない。業界的には周回遅れランナーに近いような気もするのであります。配達用猫ロボも役に立っているのかな。