街を歩く

刺し盛りで一杯

三点盛りに 「げそわさ」追加

新宿に本店のある日本酒居酒屋の渋谷店に行ってきた。渋谷は東京の中でも独特な街だと思うが、その原因は圧倒的な若者世代の多さであり、高齢者が徘徊していない街だからだ。すでに日本の人口は1/3が高齢者、ジジババだから、街を歩けば高齢者が一番多い。ところが、渋谷の街を歩くと年上と見える世代もせいぜいが40代後半から50代の感じだ。
当然、街中にある店は若者向けが中心になる。東急百貨店東横店は現在再建築中だし、東急百貨店本店は閉鎖してこれから解体工事になる。高齢者が行きたくなるような施設が、もはや渋谷には西武百貨店しかない。ただ、西武百貨店も昔からちょっと尖ったセンスだし、最近では買収された先が、ハイセンスビジネスとは縁がない企業のせいか、微妙にやぼったいというか、変なセンスを見せていて高齢者向きとはいえない。

そんな高齢者に優しくない街「渋谷」で、高齢者が好きそうな店を探すのはなかなか大変だ。そもそも渋谷で無理をして探すくらいなら、もう少し足を伸ばして違う街に行くほうが良い。お江戸の東部、下町エリアにまで行けとは言わない。山手線西部領域でもあちこちにジジババ向けスポットは残っている。
そんなことはわかっているのだが、なぜか所要が渋谷で重なり、ここしばらく何度も渋谷に行く羽目になった。せっかく渋谷に来たのだからファッショナブルなトレンド先端的な店に行くのも良いのだが、ついつい美味い日本酒で一杯やろなどと考えてしまい、希少な高齢者向き店舗、生きる化石のような店を見つけてきた。
その結果として、周りにいる客も当然ながらほぼ同年輩のロートルオヤジばかりだったが、1組だけ30代のカップルがいた。日本酒酒場に来て、注文したのがレモンサワーとハイボールだったので、よく目立った。つい気になって聞き耳を立ててしまったが、料理の注文も揚げ物と飯だった。なかなか面白い利用の仕方だと感心した。

本日のおすすめという料理は何品か黒板に書かれていたが、あえて刺身三点盛りを注文してみた。実は新宿本店で頼んだ刺し盛りがかなり気に入ったせいもある。そして登場してきた刺し盛りを見て2度びっくりした。まずは切り身の厚さだ。この厚みはすごい。標準的な刺身の厚みがどのようなものかはわからないが、なんとなく「普通の2倍だな」という感じがした。口に入れるとモグモグと噛む。いや、噛み締めることになる。噛み締める刺身は、随分と珍しい気がする。
二番目のびっくりは、ネタにサーモンが入っていることだ。昨今の若者世代で人気がある寿司ネタナンバーワンがサーモンだそうだ。サーモンは色が赤み(紅色)ではあるが、肉質としては白身魚になるらしい。だから、この3点盛りは赤身(マグロ)と白身二種の組み合わせになる。
お江戸の定番の組み合わせといえばマグロと白身とイカと思っていただけに、イカの代わりがサーモンかと驚いたわけだ。すでに若者のサーモン人気は高齢者にも触手が伸びているということだ。ジジイの若者志向というのはちょっと気持ちが悪いが、食の嗜好に関しては多数派(ジジイ層)が少数派(若者)に駆逐されつつある。伝統は受け継がれることなく廃棄されるのだ。これも現代日本人特有の、若者礼賛の表れだろう。ジジイが若物に媚びてどうするというのだ、などと心中で毒付いていた。が、平日にユニクロに行くと客の平均年齢が60歳を超えているように見えるのと根っこは同じだ。
かなり微妙な気分でサーモンを食べたが、決してまずいわけではない。脂が乗ったサーモンはトロとはまた違う楽しみ方があるし、合わせる酒を選べば良いのだ。などと心の中でぶつぶつ言い訳めいたあれこれを考えていた。サーモンを食べた後、一緒に注文した「ゲソワサ」の淡白さが身に染みるうまさだった。
これは味覚という点で、老化というよりヒトとしての劣化なのかもしれないなあ。渋谷の夜はほろ苦い。

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