
竹下通りから明治通りに出た後、東郷神社までは一息の距離だ。ただ、この東郷神社は(個人的には)新しくできた人工的な神社という感じがあって、今一つ拝みに行く感覚にならない。東郷元帥の記念館みたいな思いが強い。
神話時代であれば日本武尊、戦国期であれば豊臣秀吉が軍人として神社に収まっる一柱になった経緯を思えば、戦功のある武人が神社の主神になるというのは不思議でもない。明治の大戦で大奮闘し歴史に残る鮮やかな結果を残した東郷元帥の神社ができても、当時の国威発揚策として考えれば当然だっただろう。
日本という国が戊辰戦争、西国諸藩連合が起こした暴力革命の結果として、30年を経過してようやく治まりかけた時期だ。おまけにその国が開発途上の貧乏国のくせに大陸の二大強国と連続して戦争するという暴挙に出た。1度目の戦争で賠償金を手にしたことに味を占め、2度目の戦争は国際的な大借金をしてまで開戦したのだから、負ければ亡国どころか民族根絶やしになるほどの大ギャンブルだっただろう。
それに勝ってしまった立役者が、軍神に生まれ変わっても仕方がない。ただ、その結果として、また世界最強の国を相手に、勝利条件も決めないまま戦争を仕掛けるという暴挙パート2をする原因にもなった。東郷神社の始まりは、まさに敗戦亡国のきっかけとも言える。
東郷元帥自身は対英米戦を危惧していたという話も読んだことがある。もしあと10年長生きしていたら、陸海軍が暴走し、開戦にいたるまでのあれこれを止める役になっていたかもしれない。貧乏なくせに見栄を張る政治屋の姿は現代にも続いている。対戦に負けてもこの国の政治屋どもの考えは変わらなかったらしい。人類が存続する限り、クズな政治屋は無くならないなのだなとも思うのだが。色々な意味で東郷神社は考えさせられることが多い。
すぐ近くにある明治神宮もそういう意味では、大正期になって創建された神社だから、東郷神社だけが特殊というわけでもない。そもそも神社には複数の神様が、時代を超えてだんだんに集まってくることも多いので、造営された時代とか祀られている主神のことをとやかくいうこともないとは思う。八百万の神の国だし。しかし、この近代的ルックスの神社というのもなんだかなあ、という気分がするのも確かだ。

その東郷神社の前、明治通りを眺めてみると知らないうちにずいぶんビルが高層化している。東京メトロ副都心線の工事中は、実に見通しの悪い渋滞道路だったような記憶があるが、今はすっきりとしているし、電線が地中化されたせいで空に余計なものが見えない。電信柱と電線電話線が消えると、空は広くなるのだとわかる。おしゃれタウン原宿には似つかわしい景色だ。歩道が広くなったので歩きやすい。原宿から表参道を抜けて青山に至るゆるい坂道も昔から散歩道としては名高ハイソサエティー愛好レベルの遊歩道であるが、明治通りも散歩のしやすい都会的な雰囲気になった。

原宿を北参道方向までぶらぶら歩いた後、原宿駅に戻る途中で見かけた、いかにも原宿っぽい洒落たラーメン屋がとにかく目についた。パッと見ただけでは、これがラーメン屋と思う人の方が少ないだろう。オープンテラスがあるカフェと言われても信じてしまいそうだ。
この店の本店(?)は恵比寿にあると思っていたら、本店は神奈川の山奥にあるそうだ。あまりにもオシャレすぎて、この店にラーメンをたべに行った記憶がほとんどない。10年以上前に一度行ったきりかもしれない。ただ、端正なスープが有名で、いわゆる高級ラーメン店の走りだった。
ネットで調べてみたら、なんとすでに国内に10店以上ある有名ブランドだった。海外にも大量に出店しているので、グローバル化したラーメンエンタープライズだ。

窓の外からメニューが眺められる。じっくりみてみた。なんと、千円では食べられない。もともと高級系な店だったが、場所柄も考えると、ついにラーメン1500円時代が到来したのだと分かった。昔から、ラーメン一杯の値段は、アルバイトの時給で1時間分くらいだと思ってきたが、ついに時給を超えてしまった。この先、時給が上がるのが早いか、ラーメンの値上がりの方が早いか、相当微妙な感じがする。
ラーメンがついに大衆食から脱出して進化する時代が来たのかもしれない。それとも、これは原宿だけで起きている局地的な動きなのだろうか。日本経済の今を探るために、もう少し原宿をぶら歩きしてみるのも良いかな。