
お江戸には様々な和菓子の名店がある。100年続く老舗も多い。(古都の人間に言わせると老舗とは少なくとも室町時代あたりから続いているブランドを言うらしいのだが)
和菓子を商う名店では、あんこに関して一言あるようだ。老舗であるほどあんこへのこだわりは強く、原材料や製法、一子相伝の秘法みたいな物語になっていると考えて良いだろう。この辺りは食に関わるものとして色々と言いたいことはあるが、今回は横に置いておく。
行列をしてでも買いたい「我がお気に入りランキング」で、和菓子部門の常連といえば、お江戸のどら焼き三名店がある。どら焼きは全国あちこちに名店、名品があるが、確かにお江戸のどら焼きは上位ランキングに並ぶ逸品だと思う。長崎のカステラと比べても良いほどの完成度ではないか。
また、庶民派の代表選手である団子の名店もお江戸のあちこちに散らばっているが、個人的には高輪のハズレにある店の団子が気に入っている。(あくまでお江戸ではという限定付きだ。団子ワールドで最大のお気に入りの団子屋は長野県伊那市にある)
下町まで足を伸ばせば「きんつば」や「〇〇もち」「くずもち」などの名店に事欠かない。「あんみつ」など甘味処も神田から浅草にかけては名所が多い。確かに、お江戸は古都と違った甘味天国なのだが、個人的なイチオシはやはり最中(モナカ)だ。
最中といえば予約をしなければなかなか手に入らない銀座の「空也」は押さえておきたい絶対定番だが、もう一軒お気に入りの名店が吉祥寺にある。そこの最中を土産にもらったら、半日くらいはウキウキしてしまう。
そもそも最中という存在だが、あれはあんこをそのまま食べるのは難しいので、あんこの味に影響のない皮で包んだ食べものという認識をしている。あんこを純粋に楽しむ和菓子、と定義しても良さそうだ。どら焼きはあんこと甘い生地の調和を楽しむものだから、もなかとはその部分が異なっている。ソロ演奏と二重奏の違いみたいなものだろうか。
最中の皮は、苦い薬を飲む時に使うオブラート(未だに存在しているとは思うが)みたいなもので、味に主張があっては行けない。あくまであんこが主役だ。
ただし、歯触り、食感も味の内なので、皮がパリパリしていないと最中の全体的な味を引き下げてしまう。なかなか厄介な脇役だと思う。しかし、あくまで皮は脇役であんこの味を引き立てるための存在だから、皮に妙な甘みがあったりしてはいけない。
だからこそ、最中は皮が湿気ってくる前にさっさと食べてしまうべきなのだが、スーパーなどで売っている量産品の最中はサイズが大きすぎる。一つ食べると満腹になってしまうほどだ。それではモナカ道に反するというか、甘味道楽のルールとしてはいけない気がする。できれば最中は白餡と粒餡など、あんこの種類を変えて同時に楽しむ物ではないかと思うからだ。
そうすると、明らかに量産品はオーバーサイズだ。だから、良い最中を売っている名店の条件とは、あんこの質もさることながら小ぶりなものを売っていることだと、個人的に決めつけている。
その点で評価が高いのは、仙台「白松がモナカ」で、大小2サイズを販売している。これはとても嬉しい。(ちなみに白松が最中はなぜか北海道でも有名で、ずっと北海道の和菓子屋だと思い込んでいた) 銀座「空也」の最中も小ぶりで好ましい。
お江戸の外れ、というかもとはお江戸の外にあった吉祥寺に羊羹と最中の名店がある。この店の羊羹は、ほとんど絶滅危惧種的品薄で早朝から並び整理券をもらってようやく手に入れることができる超難関プレミア付きな羊羹だ。味は当然素晴らしいのだが、そんな苦労をして手に入れたものを自分で食べるのはあまりに惜しい。なので、ゲットした羊羹はとてもお世話になった人への手土産などに使われることが多いようだ。もらった人も、羊羹の味に感動するより、自分のために苦労して朝から並んで手に入れた努力を賞賛するという、なんとも悩ましく、ある意味誤った和菓子の楽しみ方になっていると聞いた。
ただ、この店の羊羹を手に入れるのは難関だが、最中であればちょっとした行列に並びさえすれば買える。タイミングによっては待ち時間なしということもある。小ぶりな最中なので5個、10個単位で買うことが多い。(すでに袋に詰められているので、この単位だとすぐに買える)
この「モナカ」こそがお土産にもらうと嬉しい和菓子の筆頭格だ。吉祥寺に所用がある時には、少し時間に余裕を持って出かけることにしている。まず最初にこの「モナカ」を買ってから、用事を済ませるという順番だ。だから、お土産でもらうことよりも自分で買うことの方が多い。5個入りを買うと粒あんが3個、白餡が2個という組み合わせになっている。自分へのお土産というのもおかしなもので、おそらく自分への気まぐれなご褒美というのが正しいだろう。そんな嬉しいお土産をもらって、ちょっと気分が上がったゴールデンウィークでありました。
ちなみにこの店の隣には、これまた行列ができる有名な惣菜屋(肉屋)があって、最中の行列に並んだ後は、メンチカツの行列に並んでしまうのも、我が吉祥寺訪問のルーティンなのであります。