
駅の改札脇に大きく貼られていた津軽観光の誘致広告だが、なんとなく違和感を感じた。確かに北海道新幹線で函館から青森まではほぼ1時間。函館から青森までは海峡を連絡船で渡って4時間かかっていたのだから、確かに近くなった。1時間の移動であれば、ほとんど隣町だ。そもそも青森と函館は海峡を挟んだ海峡文化圏であり、言語的にもほぼ同じというか同一地域だろう。北津軽と南津軽程度の差しかないと思う。
違和感の原因は札幌から函館までの距離と時間にある。在来線特急で函館まで行くとほぼ4時間かかるはずだ。同じ地方自治体の中にあるのだが、札幌函館間は空路で移動するほど距離がある。(ちなみに、札幌釧路間も空路移動する距離がある)
つまり、函館青森は隣町だが、函館に行くのは大旅行ということだ。奈良観光キャンペーンで、京都に行ったら奈良は隣町なんだよ、すぐ近くだから京都のついでに寄って行こう!! みたいな感じだろうか。
札幌函館が遠いのは、北海道民みんな知っているよね、だからそこんとこは黙っているけどさ……的なチート感がこの「待ってるよ。津軽」には存在している。
個人的には、青森も函館も好きな街なので、遊びにおいでと言われればホイホイ行ってしまいそうだ。函館までの特急もビールを飲んで軽く昼寝をして目が覚めたら函館だった、という感じの素敵な鉄旅になる。全く文句はない。
その上、昼には函館で鮨を食べ、それから新幹線でひとっ走りして、夜には津軽三味線のライブハウスで青森の銘酒を楽しむなんてこともできる。
ただ、宣伝文句通りに「キガルに、ツガルへ」を体感するには、北海道新幹線が札幌延伸するまで待たなければいけないだろう。その時になれば札幌青森間は2時間を切るはずだから、確かにお気軽な鉄道旅になるはずだ。早く新幹線が通れば良いのだが、なんだかトンネル工事が遅れいているらしい。残念。

そんなことを考えていた夜に、久しぶりのバーに繰り出し珍しい酒を飲んだ。多分、この3年間はこの酒を口にしていないはずだ。それなりに酒の銘柄を揃えてあるバーでなければなかなか飲めない「ヨードチンキの匂い」がする強烈な一杯を楽しんだ。
口に含んだ瞬間グワっと鼻に抜ける強烈かつ凶暴なモルトの香りは、酒の初心者には楽しむことが全く無理な代物だろう。酒飲みでも中級者程度では、暴力的に迫るこの酒には痛烈な拒絶反応が出ると思う。相当な手練れな酒飲みでなければ近寄ってはいけない。せめてラフロイグくらいの軽めから始めるのが大事な手順だろう。
と、一応忠告だけはしておきますので、この後は自己責任でお試しくださいと、隣の席に座った同行者には話した。口の中が地獄になる体験というのはなかなか貴重なものです。絶対に悪夢の体験になるという期待は裏切らない(はず)銘酒であります。飲んだ後の感想は聞かないことにしている。

おまけで、テキーラを注文した。この酒と同じような感じのものがあるかとマスターに尋ねたら、これですかねえと出てきたボトルは、何やらスッキリ系に見えたのだが。一口飲むと、これはまたモルトとは違う地獄の香りがしてきた。モルトがヨードチンキとすれば、こちらはセメダインだった。うーん、まだまだ酒の世界は知らないことばかりで奥が深いと感じた。しかし、酒を飲むのは楽しみの場であり、決して修行の場ではないのだがなあ。
昼に感じた違和感が、夜には違う意味で増幅された1日だった。