街を歩く

コロナの落とし子

京都の名物お菓子といえば、生八橋と短絡的に思っていた。高校生の時に行った修学旅行以来の刷り込み記憶だ。30代になり仕事の関係で京都に訪れることが増え、いろいろと現地の方に教えてもらい、お土産のレパートリーが増えた。その中でいちばんのお気に入りがスグキ(丸のまま)の漬物で、これは日本の発酵文化として一つの頂点であるとまで思っている。
これに続く発酵ものといえば、飛騨高山で売られているカブの千枚漬けだろうか。あえて加えると北海道のニシン漬けが古くなったものくらいだ。
ただ、京都の菓子という観点で言えば、「阿闍梨餅」(あじゃりもち)に尽きる。京都駅横の百貨店でも、この菓子の販売店はいつも長蛇の行列で、新幹線の時間に余裕がない時は諦めるしかない。

もちっとした皮の部分がうまさの秘訣だろう

その阿闍梨餅だが、お江戸でも日本橋の三越、高島屋などでは週に一回程度販売されることがある。ただ、ここでも人気商品らしくあっという間に売り切れるらしい。日本橋に和菓子を買いに行き、おまけに行列までして買いにいくというのもゾッとしないので、基本的には諦めているのだが。
ところが感染症拡大期、さすがの京都も観光客が激減して土産物屋も大変だったようだ。当然、人気の和菓子屋もあれこれ対策が必要だったことは理解できる。その結果、なんと自宅近くにある元・百貨店の諸国名物販売コーナーに月に何度か全国の名物菓子が並ぶようになった。その中に、これまた驚異というしかないのだが、阿闍梨餅がラインナップに入ってきた。
どうも埼玉のハズレの街では阿闍梨餅の知名度が低すぎるのか、行列して買う必要はない。ワゴンの上に山盛りの積まれているので、個数制限もない。欲しいだけ買える。これは本場の京都でも体験できない天国プランだろう。この3年間でいったい何度阿闍梨餅を楽しんだことだろう。感謝だ。

コロナが終息しつつある時期になり、観光客が有名観光地を中心に急回復しているそうだが、そうなると我が地元で阿闍梨餅を売る必要もなくなるだろうと思っていた。それはちょっと残念だが仕方がないことだとも思う。
ところが、どうやら月に何度かの遠征販売は今後も継続されるらしい。ありがたいことだ。おまけにこの遠征販売のローテーションの中には、浅草の亀十のどら焼き含まれている。浅草の名物どら焼きは店頭で並んでも買えない人気商品だった。おそらく今頃は昔のように大行列ができていたり、早い時間に売り切れているのだろうから、地元で並ばずに買えるのは「素敵なこと」だ。苦しい時期に販売してくれていた拠点を、平常モードになったからと言って切り捨てはしないということだと推測する。真っ当な商道徳は今でも生きているようだ。
いろいろとあった感染症の3年だったが、良い落とし子がないわけでもないということだろうか。埼玉のハズレの街で、少しだけ幸せなことが増えたのは間違いない。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中