食べ物レポート

東家本店にて極める

知る人ぞ知る、知らない人はたくさんいる北海道蕎麦屋あるあるの一つだが、北海道蕎麦の本家筋は釧路にある。釧路の春採湖近くにある蕎麦屋から分店しているのが東家系蕎麦屋だ。釧路本店名物である蕎麦寿司が食べられるのは、東家系列では当然のことだ。ただ、この蕎麦寿司の知名度があまり高くないようで、ちょいと残念な気がする。
札幌の蕎麦屋巡りでもしてみようかと、平日の昼下がり、サラリーマンのランチが終わる頃に暖簾をくぐった。札幌の東家本店はススキノの近くにある。その割に夜の早い時間で終わってしまうから、締めの蕎麦とするのは難しい。もう一軒の蕎麦屋が夜遅くまでやっているので、そちらではたまに深夜蕎麦をすることもあったが、この店は使い方がなかなか難しい。

昼下がりの蕎麦屋で注文するとしたら、それは「かしわ抜き」に限る。というか、かしわ抜きや天抜きがない店には、昼下がりどころか夜にも行ってはいけない。そういう店はクイックランチ専用に限定するべきだと思う。
かしわ抜きはそれだけでうまいものだが、ちょっとゴージャスにするには天ぷらを別に注文して、かしわ抜き+天抜き作成コースにするべきだ。
今回は、かしわ抜きにホタテの天ぷらを追加した。正統天抜きとするには海老天がベストだが、ここは北海道的アレンジで「ホタテ」にしてみた。
かしわ抜きは小さめのどんぶりに濃いめのつゆが入っている。具は長ネギと鶏肉だから、かしわ蕎麦のそば抜きであり正しいお作法だ。つゆがちょっと甘めなところが好みだ。つゆの味が染みこんだ長ネギをつまみながら一杯やる。昔お江戸にいたいなせな兄ちゃん(不良)が嗜んでいた、蕎麦屋で一杯の高級版だ。いなせなにいちゃんたちはたいて貧乏だったので、熱燗にもりそばでちびちびやっていたそうだ。もりそばと比べれば、かしわ抜きは三段階くらい高級な酒の肴だろう。いなせなにいちゃんたちからすると、どこぞの大店のボンボンがするけしからん贅沢な注文だ。

ホタテの天ぷらは、天つゆがついてこない。塩の入った小鉢がついてきたから、塩で食べてねということらしい。確かにホタテは塩で食べるとうまいだろう。まず一口は塩をふりかけて食べた。熱々でジュワッと旨味が溢れてくる。ホタテを注文したのは正解だ。

ただ、そのあとはかしわ抜きの残りにドボンとホタテ天ぷらを投入した。衣がつゆを吸い取ってふやけてくるのを待つ。そのブヨブヨしてきた衣を箸で剥ぎ取ってつまむ。これまたうまい。天ぷらの衣が蕎麦のつゆを吸うと旨さが何倍かに増幅されるが(個人的な見解です)、それをちびちびつまみながら飲む酒は実にうまい。大衆酒を熱燗で飲む時には最強のつまみだろう。間違っても純米大吟醸などと組み合わせてはいけない。下卑た食い物の旨さを楽しむには、大衆酒こそが似合っている。
立ち食い蕎麦屋のほとんど衣しかないかき揚げ蕎麦がうまいのは、人間の本能にきざまれている旨味成分、つまり脂とアミノ酸がたっぷり含まれているからだ。かしわ抜きや天抜きは、そのかき揚げそばから満腹感を醸成する炭水化物、つまり蕎麦を抜き去ったものだから、旨さだけを残した食べ物だ。酒の肴に向かないはずがない。

最後には、もりそばで締める。この蕎麦、炭水化物を最終段階で投入し完全なる満足感を得る。そして、蕎麦湯に溶け込んだルチンを蕎麦つゆのグルタミン酸、イノシン酸と共に味わう。アミノ酸の摂取も完璧だ。
実は、蕎麦屋の一杯こそ、人類の本能に刻み込まれた「旨み」を完全に達成するための究極技だと思っているのですがねえ。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中