
自宅近くのスーパーに買い物に行く途中で気がついたノボリに、なんだかあれこれ考えさせられた。この店は今や風前の灯的な、業態全体が衰亡してきている「唐揚げ専門店」だ。コロナのお手軽テイクアウト、宅配需要を受けて急成長した唐揚げ屋が、これまた急速に閉店しているのは、やはり「専門性」に欠けるありふれた味だったことと、鶏肉の値上がりを価格転嫁できないことに尽きるのだと思う。
甘とろから揚げ丼という商品は、なんとなく理解できる。唐揚げ定食の簡易版として「唐揚げ丼」がメニューにあり、そのソースバリエーションであれば「甘とろ」はアリだと思う。ただ、豚カツとカツ丼の関係が、鶏唐揚げと唐揚げ丼で成立するかと言えば、それは無理線だろう。
物性的には、トンカツが平面的な比較的薄い食べ物であるのに対し、唐揚げは球状に近い厚みのある食べ物だ。カツ丼はタレや卵とカツが絡みやすいから、白飯とのバランスが良い。簡単に言うと米とカツが同時に口の中に入る。
唐揚げを丼にすると、肉の厚みのせいで、このコメと唐揚げの一体感が作りずらい。唐揚げをひとかじりし、続いてコメを別途投入するという2段階工程になる。それをカツ丼のように、一工程で対応するとして「薄い唐揚げ」にする手はあるが、ビジュアル的にはボリューム感がなくなり厳しい。そもそも、薄い唐揚げとチキンカツの違いが微妙で、唐揚げ丼ではなくチキンカツ丼になるのではないか。唐揚げがらみであれこれ考えてしまった。
それ以上にびっくりしたのが、つけ汁蕎麦のノボリだった。唐揚げ屋から蕎麦屋に業態転換したのかと思ったほどだ。

あまりに気になって店舗の入り口まで確かめに行ったが、まだ唐揚げ屋だった。ただ、入り口脇のバナーは蕎麦になっていて、どこかで聞いたような「野菜マシマシ」なつけ蕎麦らしい。おまけに唐揚げがついているとは言え、つけ蕎麦で1000円越え(税込)とは、これまた腰が抜けるほどびっくりした。唐揚げ定食の値段を考えると、ちょっとぼったくり価格的にも見えてしまう。
蕎麦を提供するには専用の機器や什器を入れなければコストダウンは厳しい。既存の厨房を使い回し、無理やり冷凍麺を導入してなんとかメニューを広げようとしても、オペレーション的には想像以上の膨大な負荷がかかるはずだ。
以前に客席から覗き見たこの唐揚げ店の厨房(オープンキッチンなのでかなり良く中まで見える)は、よくできたコンパクトなものだった。あの中のどこに麺のラインを入れたのだろう。おそらく、冷凍麺のコストをオペレーションで吸収しきれなかったから、この値付けになってしまったのだと思うが、やはり無理があるような気がする。
そんな無理をしなければならないほど、「からあげ業態」が悪化しているのか。だとすると、このチェーンでは主力のファミレス業態を唐揚げとのWブランド化しているのも、もはや得策ではないだろう。コロナの後遺症は中小規模の飲食店より大チェーンの方が厳しいようで、このままでは年末に向けて大規模合併が起きそうだな、などとまるで他人事のような感想を持っております。いや、たしかに他人事なんですけどね。