小売外食業の理論

昼夜 1・5毛作居酒屋

昭和レトロのレストラン、居酒屋についての考察の続き、二番目のお話になる。この「大ホール」という看板から分かる通り、新業態は「大衆食堂」と言う決め事、コンセプトで始めたようなのだ。では、大衆食堂という言葉のイメージはなんだろう。最近ではよく使われる「町中華」という言葉にも同じようなニュアンスがあると思う。
自分なりの考察だが、一つ目は昼夜通しで開いているのが原則、長い営業時間であることだ。夜に一本勝負をかける居酒屋とはそこが違う。二つ目は定食主体の食事メニューで、白飯と味噌汁がセットになっているのがメニューの基本構成だ。変化球として、飯と白飯が一体化した丼もある。丼の変形として、カレーライスなどのかけご飯系も準定番としてある。要するに主役は「白飯」にあり、つけ合わせとして軽めに一品追加できる小皿も豊富なことが多い。冷奴やきんぴらごぼうといった、簡便な副菜が中心となる。
大衆食堂では、その白飯のおかずや追加の一品を頼み、酒を飲むことも可能になっている。飯屋が簡易居酒屋に変わるという感じだろう。昔は駅前には必ずそういう店が一軒はあったものだ。多用途に対応した街の便利な食堂という点で、専門チェーンが全国に展開する前は繁盛している商売だった。
これに対応する形で、町の中華料理屋が意識的に居酒屋方向にメニューを広げて行ったのは昭和中期以降のことだったと記憶している。

結果的に、町中華と大衆食堂のメニューは重なり合ってしまう。チャーハンとラーメンとカレーライスが、どちらの店にも標準装備品となる。カツ丼や餃子も共通品になる。日本人の食生活が広がったと考えるべきだろうし、大衆価格で提供する商品は専門店化・高級店化しない「一般大衆のもの」的として広がっていく。大衆食堂と町中華は、同じ方向に収斂して行ったはずだ。
この「てんぐ大ホール」は、その昭和の飲食業で起きた収斂進化を、令和の時代にアレンジしようとしているように見える。つまり、昭和レトロ感は「町中華と大衆食堂」が併せ持った、なんでもありな、それでいて普段食べたことがあるものばかりに、メニューを収束させるのが狙いだろう。
世の中に溢れる様々な専門店、鮨や蕎麦のような和食系、ステーキや焼き肉のような肉主体レストラン、あるいはエスニック系などのとんがったコンセプトとは一線を画す。なんでもありで、どれもこれも安心感がある、食に冒険を求めない平成生まれのスタンダードを狙っているのだと思う。決して昭和オヤジのノスタルジー向けのコンセプトや商品ではない。 
結果的に、昼夜ともに定食があり、酒も飲める二毛作ならぬ1.5毛作(定食+軽飲み需要)に仕上がっている。

今の若い世代の好物やサーモンとネギトロだと思っている。どちらも脂分の多い魚料理だが、骨がないのが最大の特徴だろう。そして食感はねっとりとしている。この食感が重要なポイントで、脂分の補給はマヨネーズが重要な役割を果たす。宮崎のローカル料理だったチキン南蛮が全国国なる最大要因は、あのタルタルソースにあると確信しているが、魚料理にもマヨネーズは必須アイテムだ。おにぎりのツナマヨにそだてられて平成生まれ世代は、醤油と味噌で生きているわけではない。体の中身はマヨネーズとチーズでできていると断言する(個人的な見解で何の物性データもありません 笑)
だから、一目見て品質の見極めがつくマグロの切り身なので主力商品として推す訳がない。みんな大好きマグロの増強品を小皿に盛り上げて提供する。それを海苔で巻いて食べてくれ、ということなのだが、海苔は2枚だ。ということは、このネギトロを二口で食べるということになる。
こんなメニューが昭和の時代にあったかと言われるとかなり微妙で、確かにどこかの居酒屋でネギトロなどを海苔で巻いて食べるスタイルはあった。うにであればあちこちで見かけたこともある。しかし、このネギトロは味が調整された「マグロ製品」だ。やはり、平成の新種メニューと考えるべきだろう。

定食屋の絶対定番メニューの一つである生姜焼きも面白い変化をしていた。個人的なイメージだが、豚肉の生姜焼きとは甘辛い醤油味で生姜がたっぷりと効いているというものだ。ところが、この生姜焼きは塩味(いわゆる塩だれを使っているもの)で、おまけに生姜は後乗せだった。横にキャベツの千切りがついているのは、つけ合わせとしてスタンダードかもしれないが、マヨが横に置いてあるのはキャベツ用なのか肉用なのか微妙な感じだが、おそらく肉用だと思う。
このような平成時代に起きたアレンジが、昭和レトロのカバーの中でしっかり形作られている。思いつきで作られたコンセプトとは思えない。強かな計算があるような気がする。冷静に考えれば「ノスタルジーマーケティング」の対象者は、少なくともしっかりとした市場規模、マーケットサイズが必要だから、完全引退した団塊世代はもとより、現在進行形で引退しつつある昭和世代は対象外にすべきだろう。
このてんぐ大ホールのメニューの大半は、既存のコンセプトである居酒屋天狗からの流用品だが、ネーミングや提供サイズを変え、値段を組み替えることで新しい価値を生み出している。旧居酒屋を換骨奪胎して、客層としては昭和世代を放棄し、酒を飲まなくなった平成世代を惹きつけるコンセプト・リメイクとして考えると理解しやすいと思う。
自分の勝手読みなのかもしれないが、急速な店舗数拡大を見ると間違ってもいないような気がする。平成の勝ち組負け組の延長線上で、令和の勝ち組負け組は決まらない。外食大手各社の動向を見ると、マネージメントでも世代交代が急速に進んでいる気がする。
この店のメニューを深読みするのは、なかなか楽しいぞ。

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