書評・映像評

本棚から一掴み その2

これも棚からひとつかみ取り出してきた本で、居酒屋ガイドブックだ。発行は2015年だから、情報価値はほとんどないだろう。永久保存版と銘打ってはいるが、立ち食い蕎麦屋と同じで居酒屋もコロナに対する抵抗力が弱かった。名店であっても、店主が高齢の場合は閉店してしまった店が多いようだ。
また、この本が発行された平成末期は低価格が良しとされていた時代でもあり、掲載されている店はどちらかというと低価格志向の店が多い。
角打ちなる言葉に誘われて、あちこちの立ち飲みの店に遠征した記憶もあるが、その頃はまだ一人飲みは少なかった。角打ちに行くにしても少人数でサクッと飲むような感じだった。今では、すっかり一人飲みが多くなったので、改めて令和版の一人飲みガイドブックが発行されないものかと期待してみるのだが。
すでに若年層のアルコール離れが言われて久しいので、購読層が限定される。一人飲みはオヤジやジジイの専業的楽しみだからデジタルではなく、紙での出版が望ましい。この時点で厳しい気がしてきた。ライターは誰がとか、ムックにするか新書判にするかなど、あれこれ考えるととても出版は無理だという気がしてきた。幻の一冊になること決定だ。

太田さんの本は随分と買い込んでいた。紹介された店もあちこち行ってみた。出張の時には、全国にあるいくつかの店をありがたく使わせていただいた。最近ではテレビで居酒屋探訪番組を欠かさずに拝見している。
これも改めて思うことだが、居酒屋巡りのリストとして「本」は活用しやすい。ただ、今では住所や電話番号などの店舗情報はスマホでチャチャっと検索できてしまう。それどころか、人気メニューや価格までもグルメサイトで探し出せる。サイトの中の情報は、この居酒屋ガイドにある体験記録、特に情緒性などの要素は吹き飛んでしまった「生の情報」なのだが、それでも良い時代になったということだ。(ちなみにグルメサイトの感想文はどこまでが本物で、どこまでがやらせかという問題が解決していないので、ほぼ読まないことにしている)
確かに飲食店の情報を入手するのが難しい時代は、食通とか言われる人の感想や意見に頼るしかなかった。今の時代は、道具立ても含めて、その他大勢扱いされていたモブ・群衆の大量意見を計量化してみることができる。
一人の食通が言う意見よりもみんながつぶやく平均的な意見の方が役立つと感じる時代になった。こうなると食通の意見は権威もなく、影響力も無くなるのかと思うのだが、それはそれで食の民主主義という理解をすれば良いのかもしれない。アルファブロガーと呼ばれる声の大きな発信者も存在するが、やはり大衆の発する声の集合量にはかなわない気がする。
だからこそ、カリスマの意見に従うのではなく、ファンとして好みの店を慕っていく。そんな楽しみ方が時代に合っている感じだろうか。その読者代表が書いた体験記録で一つの店の話を読んで、ああ、この店に行ってみたいなあと思う。これはグルメサイトで感じない「知的遊戯」ではないか。それでも、とりあえず次に行きたい店を選んだら、グルメサイトで営業しているかどうか確かめなければな……………

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