
去年の後半、家の近くにある県道沿いにバタバタとラーメン屋が開いた。コロナによる外食不況が終わりつつあるんだなと、素直に喜んでいた。ただし、他の外食店が撤退した跡地への出店なので、世代交代というか淘汰が進んだという側面が目立つ。
その新規開店の店で家から一番近いのが、この双子店舗だ。入り口は一つで中の客席をシェアするのかなと思っていたが、実際には入り口が二つあり、店内は壁で完全に分離される構造だった。そこで、まずは右側の店を試してみた。ラーメン界では有名な東京発チェーン店だが、すでに中堅から老舗の域に達している。
ちなみにラーメン屋の開店2年後の生存率は5割程度と聞いたことがある。開店から2年経つと、半分の店が閉店するということだ。だから10年生き残っていれば、ラーメン界では老舗になる。20年続けはレジェンドだろう。このブランドも20年ものでレジェンド級だ。

メニューはシンプルだが、やはりレジェンドになる店は定番品が圧倒的に支持されるから長生きできるのだという証明だ。この店の絶対定番は「つけ麺」だと思うのだが、とりあえずというか捻くれて「中華そば」を注文することにした。ちょっと気温が低かったこともあり、温かいものを欲していたという単純な理由だった。これが炎天下の夏だったら、迷わずつけ麺にしただろう。当然、次回はつけ麺にするつもりだ。ただし、腹ペコにしていないと、つけ麺のボリュームに負けてしまう。

魚介出汁の濃厚スープは、ゴワゴワの太麺とよくあう。太麺は啜るというよりもぐもぐ食べる、噛み締めるものだ。相変わらずの面食い向けうまさだ。線路を挟んで反対側には、池袋大勝軒の暖簾分けした店もあるが、やはり人気のつけ麺店はもぐもぐ系なのだと思う。その大勝軒分店は、創業者の味を一番忠実に再現しているとネットの記事で読んだことがある。コロナの間は多少空いていたが、今では前にもましてランチの行列ができている。行列が空いてから行くと、スープ切れで閉店してしまう。人気店はやはり行列を覚悟しなければいけない。家の近くにあるから我慢できるが、うまいレー麺を食べる代償として諦めるしかない。名店特有の「玉に瑕」というやつだ。
この大勝軒分店とこの新鋭つけ麺レジェンド(?)が、どちらも徒歩圏にあり食べ比べできるのはかなりラッキーなことだと思う。おまけに、ぎょうざの満洲本店も徒歩圏にあるから、実はラーメン天国に住んでいるのかもしれない。

カウンターの壁に貼ってあった「商品説明」は、簡素にして十分な情報だ。この店の中華そばは年配の客が慣れ親しんでいる「昔風ラーメン」と、北極と赤道くらい離れているので、こういう説明書きは意味がある。
都心部のラーメンフリークが行列するような繁盛店では、客が行列する前からその店の商品特徴を事前に下調べしているから、この手の情報は不要だ。しかし、埼玉県のハズレにある高齢者多数在住のベッドタウンでは、この手の注意書きは必須だろう。高齢者のクレーマー対策は、今や飲食店では「無銭飲食」よりもタチが悪い、絶対必要な営業テクニックになっている。
タチが悪いクレームの典型だが、味のうまいまずいではなく、自分の体験し損なった「楽しい時間を返せ」などと言いだす。超能力者でなければ、時間は戻せない、返せない。無理難題というしかない人類では対応不可能な要求だ。そもそもそんな時間を巻き戻せるサイキックな能力があれば、飲食店などやらないと言いたくなる。ただ、一言そういうと、まさにヒートアップする「やから」が多い。そのクレーマー対応を見てしまうと、周りにいる客が引くのは間違いない。明らかに営業的にはマイナスだろう。
商品説明は、今や、店舗常備のマストアイテムだな、うまいラーメンを食べた後で真剣に考えていた。飲食店をやるには、教科書には載っていない裏ノウハウが重要な時代なのだよ、と呟いておりました。