
コープ札幌は時々びっくりするような企画をしている。コープというと真面目でおとなしいイメージがあるが、札幌と仙台の生協は何やらローカル・スーパーマーケットよりはるかに進化しているような気がすることが度々だ。戦闘力が高いというべきか。
この「ぶこつ野菜」というのも、なかなかチャレンジ精神があふれている。POPが手作り感(多分パソコンで担当者が作った)がまんまんだ。

ぶこつ野菜とは、あまり見た目にこだわらず、中身で勝負ということらしい。根菜中心に日持ちのする野菜が並んでいる。これであれば少人数家庭でも何日間に分けて使うことができるだろう。農作物は収穫の手間より、選別の手間がはるかにかかる。その手間にかかる人件費を抑えるには、大小や傷の有無、見た目などで選別しないのが一番だ。
野菜を箱買いしても思ったほど安くならないのは、箱の中身も選別されているせいだ。そうした流通業の掟をどう打破していけるか。昭和生まれの高齢者は、見た目や大きさにこだわる習慣をつけているので(つけられたので)、この「綺麗な品物大好き病」の呪縛から逃れられない。おそらく平成後半生まれの世代が消費の中心になる時期に、転換点が生まれるような気がする。この「ぶこつ野菜」が、その時代の先駆けかもしれない。ということで、ぶこつ野菜をいくつか買ってきて、料理をすることにした。

最初は「野菜中心」のすき焼きにしようと思った。北海道ですき焼きといえば、ほぼ豚肉になる。牛肉ですき焼きという家庭は、ルーツが間違いなく道外、それも西日本に近いところだろう。札幌圏であれば関東・関西からの転勤族は牛肉のすき焼き、地元民は豚肉ですき焼き。だから、すき焼きの会話になると、いきなり紛糾する。おまけに、牛肉すき焼きには流派があり、関東風と関西風の調理法の差が、揉め事を大きくする。(笑)
少なくとも、これから結婚しようとする北海道のカップルは、すき焼きと雑煮とジンギスカンのお作法を確認しておいた方が良い。料理の恨みは一生祟る可能性もある。ルーツが全国の流れ者で構成される北海道特有の問題だろう。
そもそも、人口200万人近い大都市札幌でも、牛肉のすき焼き屋を探すのは難しい。今でも、存在を確認できない。平成初期に最後のすき焼き店が無くなったような記憶がある。
牛丼屋ですら人口と比較すると明らかに少ない。日本最大の外食企業、マクドナルドですら人口比で言えば東京の半分以下の密度なので店舗網がスカスカだと感じる。北海道は、それくらい「牛肉」の人気がない地域だ。
話を戻す。すき焼きも豚肉が主流になるが、すき焼きではなく「肉鍋」と呼ぶこともある。個人的には、こちらの方がしっくりくる。調理法は「焼き」ではなく「煮る」鍋で、野菜が多めであることが正統すき焼き?とは違う。
が、今回は貰い物の鹿肉があったので、鹿肉すき焼きにしようと思った。これはちょっとレアものだ。鹿肉は、当然ながら野生なので季節によって味が違う。冬手前であれば、餌の少ない冬に備えて丸々と太っているはずで、脂が乗っているらしい。春先になると、冬越えをして痩せている、つまり肉も脂身が少なくなる。発情期の肉は匂いが強い。だから、時期によって食べ方は変えた方が良いと聞いた。もらった鹿肉を切っているうちに、意外と脂身が少ないことに気が付き、食べ方を変えることにした。これは焼き肉にすべきだ。焼き肉にすれば、なにやらワイルド感もある。
いそいそとホットプレートを出してきて焼き肉を始めたが、意外とクセのある肉だった。そこで、焼肉のタレをジンギスカンのタレに変えた。ということは、これは焼き肉というより鹿肉ジンギスカンではないか。だいぶすき焼きから遠ざかった。
羊の肉より煙が出ないのは脂身の違いらしい。ジンギスカンの焼ける匂いは独特で、羊を食べているなという気がするが、鹿肉は煙に特徴的な匂いは感じなかった。少しもっさりとした食感がするにくで、豚肉よりも鉄分の味を感じる。
これが冬の北海道名物になるとは思えないが、冬にしか食べることのできない食べ物であることに間違いない。自宅でジビエ料理とは、なんとも不思議な気分がするが。ぶこつ野菜とは相性が良いので、冬の焼き肉は鹿に限ると言いてみたいが、鹿肉はどこでも手に入るわけでもないからなあ。普通に肉屋では売っていないし………
やはり猟師を友達にするしかない、という途方もない結論でした。