小売外食業の理論

コロナの後の居酒屋戦線考察

具の見当たらないソース焼きそばが酒の肴には向いている

コロナの第七波などとメディアが騒いでいた夏が、おそらく外食の復活期だった。半年近く経ち振り返ってみると、ああそうだったなあとわかる。メディアも視聴率が取れないせいか、コロナ報道は下火になっていた。オリンピックが終わり一年が経ってみれば、予想通りというか当たり前というか、汚職の摘発が始まり大手広告代理店がまな板の上で処分を待っている。おまけに談合疑惑も発生し、公取が出動する事態にまで発展した。市民感覚的にはオリンピックの熱狂もすっかり冷め、一年も経てば、「悪い奴」退治のニュースをネタにオリンピックを小馬鹿にする風があっても不思議ではない。まさに、居酒屋のオヤジネタにぴったりだ。居酒屋復活を祝うが如き、オリンピック汚職ネタで大いに盛り上がったことだろう。
オヤジ族と言えば、ひっそりと昼飲みに移行していたジジイ層を含め、居酒屋が昼営業を縮小し通常モードに移行すると、当たり前のように夜活動に戻ってきた。あの周りを無視したような大声というか喚き声も復活した。やはりオヤジ族には学習能力がない。孤食だの黙食だのという言葉は記憶にさっぱり残らなかったようだ。
ただ、コロナが終わって(?)、行動変容しないオヤジたちを置き去りにして、居酒屋は様々な変化をしている。生存戦略と言っても良いのだろう。基本的に「値上げ」を行い、省力化を進めている。意外なことにオヤジ対応の低価格居酒屋である「一軒目酒場」が、その変化の先頭を走っている。そこで見つけた重要な変化を二点あげてみたい。
一点目が、「具なし焼きそば」推しにあらわれる、低単価維持を見せかけるメニュー再構築だ。値上げごまかしのフェイクメニューというと言い過ぎかもしれないが、目眩し作戦であることに間違いはない。酒類の大半が1-2割の単純値上げをしている。その値上げ感を和らげるのが、定番商品の価格維持と新商品として肉系商品(ただし少量化している)の導入だ。揚げ物を中心に、値上げはしていない定番品もある。値上げの主力は、冷製の肉料理、つまり手間要らずですぐ出せるものを、高価格帯400-500円台で提供し始めた。
そして、腹を膨らませる膨張剤としてのつまみが、焼きそばやマカロニサラダといった炭水化物系の食べ物になる。これを壁面の「メニュー札」を使って推しメニューにそている。マカロニサラダに至っては価格を上げずに増量したようだ。
濃い味付けにした炭水化物系のメニューを価格上げずに増量するというのが、値上げ感を和らげる基本戦略となっているようだ。これは他の居酒屋でも同じようだし、ファミレスの昼飲み用サイドメニューも同じような傾向がみられる。まあ、オヤジ対策に考えることは皆同じということだ。

豚のタンの冷製 なかなかうまいが、お値段はそれなり

二つ目の転換点は、メニューに「人間」が登場してきたこと。低価格居酒屋が値上げをしたくなると最初にすることが、素材の品質を訴えかけ価格価値を上げようとすることだ。要するに「高くても、美味しい」路線に変更するという宣言なのだが、大方これは失敗する。低価格居酒屋に集まる客のニーズに、高くてもうまいものはない。安くてうまいものが望ましいが、それも難しいのは客も理解している。だから、安くてそれなりな味のもので十分だと思っている。高くて、それなりのものは論外としてしまう価格圧力だ。
では、素材訴求が失敗すると何をするか。次は「人」の宣伝をする。料理長を登場させてレシピーのユニークさを語ったり、有名シェフとのコラボを自慢したりする。最近のコンビニ弁当も同じ手法をとっている。要するに、誰かの権威に寄りかかる「ちゃっかり値上げ戦略」だ。これが意外と効き目がある。特に、ヘビーユーザー、つまりその店の常連客には評判が良くなる。
金があればもっと高い店に行くのにな、とは思っていないのがヘビーユーザーだ。この店は、安くて適当にうまいと思う「俺のお気に入り」「自分の店」意識があるからだ。だから、その常連客にターゲットを絞れば、「人間商標」は意味がある。看板に使われる「ヒト」が、自分達の代表に思えてくる。著名人や有名人に同化できる。あるいは、自分たちが飲み食べしているものの「正統性」が担保される(気がする……)からだろう。
ただ、この店はオヤジたちに心情的に寄り添ったふりをしながら、注文のデジタル化を進めている。それも全席にタブレットを設置するかわりに、個人所有のスマホからQRコードでアクセスさせる。タブレットというデジタルギアを置くことで、デジタル拒否層を刺激しないようにした。オヤジの心証をよく汲み取ったものだ。
しかし、デジタル許容層にはスマホで注文させるという進化は取り入れた。店内にはデジタル感を出現させない「あざとさ」だ。スマホが使えず、デジタル注文に抵抗があるジジイ層には、従来通り従業員が注文を受ける。このあたりの匙加減が絶妙だろう。この店を安い酒場として使っている20代から40代の層にとっては、スマホ注文が主流になっている。
結果として、店内に「すいませーん」と従業員を呼ぶ声は少なくなった。残ったのはジジイとデジタル非対応オヤジの声だけになった。今や居酒屋も体感的には半分くらい静かになった。

紙製のグランドメニューもしっかりテーブル各席に置いてある。コロナ前のメニューは商品写真もなく「字面」だけしかない、素っ気のないものだった。カードケースに入っていて、裏表をひっくり返して見ればそれが全てというシンプルさだった。メニューの中身もほとんど変化なしで、日替わりメニューが別添で置かれているくらいだから、オヤジでも注文に苦労することはなかった。
それをファミリーレストランのような商品写真入りの「面倒臭いもの」に変えた代わりに、同世代のおっちゃん写真が登場している。共感を強める手法と考えれば、これはなかなか革新的な変化だ。ファミレスが変化の方向を見失いのたうち回っているのと比べると、アフターコロナの居酒屋は、なかなか強かなのだ。

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